悪魔の力? ビング・クロスビーからジミー・ロジャースまで何でも弾けた
ロバートはなぜここまでブルーズの技量を上達させることができたのか。それは「クロスロードで悪魔に魂を売って名声を得る契約を結んだからだ」というあまりにも有名な伝説がある。
ことの発端は、ロバートよりも10年ほど前に有名になっていたトミー・ジョンソン(ロバートと血縁関係はなし)。トミーの弟・リデルは、ろくにギターも弾けなかったのに、帰ってきたら熟練したミュージシャンになっていた兄を不思議に思った。理由を尋ねると、
「自分のやりたい楽器の弾き方や、自分で曲を作るやり方を覚えたかったら、ギターを持って道が交わってるところへ行くんだ。クロスロードにな。忘れるなよ。そこに行くのは夜の零時ちょっと前だ。間違いなくそこにいるようにしろ。持ってきたギターを一人でひとくさり弾いてみる。すると黒い大男が起き上がってお前のギターを取り、チューニングを始めるだろう。そいつは弾き終えると、ギターをお前に返す。俺はそうやって何だって好きに弾けるようになったのさ」
サン・ハウスは「ロバートもきっと同じことをしたのだ」と思った。
こうしてロバート・ジョンソンのプロのミュージシャンとしてのキャリアが始まった。デルタ一帯からシカゴやニューヨークへ。バスや列車、ヒッチハイク、時には貨物列車に飛び乗りながら、ロバートはたくさんのミュージシャンと知り合い、その名を上げていった。
そして1936年11月23日。テキサス州サンアントニオにて、最初の録音を行った(8曲)。同月26日に1曲、27日には7曲。さらに翌年6月19日〜20日の13曲の録音と合わせて、すべてが歴史的な伝説となった(これらは『King of the Delta Blues Singers』シリーズや『The Complete Recordings』などで聴ける)。
ロバートはビング・クロスビーからジミー・ロジャースまで、何でも弾けたという。
一方でクロスロード伝説には、一度も聞かされたことがないと否定。少年といっても19か20歳。確かに2年間もあれば、ギターのテクニックを磨くには十分な期間だろう。
「当時の人々は魔術だとかああいうことばかり考えていた」
西アフリカに広く流布する、この世とあの世の十字路の番人、パパ・レグバの神話。神秘主義、黒魔術、ジュジュといった信仰の一部は、新世界のアフリカ系アメリカ人にもしっかりと根付いていたに違いない。