死の際には「毒を盛られて、四つん這いになって犬みたいに吠えた」
メディア上で最初にロバート・ジョンソンと悪魔を結びつけたのは、ジャズ評論家ルディ・ブレッシュによる1946年の散文だった。
ロバートの代表曲『Hellhound on My Trail』に関する誇張された曲解釈は、その後の研究家たちに恐るべき影響を及ぼすことになった。
「ハーアアアム」と悲しげにぼんやりとその声は歌い、不吉な下向きの流れに乗って、うめき声のように静まっていく……放浪者が発する声。そのこだま。ギターの弦の隙間をあざ笑って抜けていく風。どこからともなく聞こえて来るゆっくりとした追跡者の足音。そういったイメージには邪悪が満ちている……星明かりはなく、身を切る風が吹きすさび、冷たい雨に洗われる暗い荒地。丘の頂をただ一人、みすぼらしい服を着て、悪魔に取り憑かれた人影が、ギターを抱えながら、とぼとぼと歩いていく。
『Hellhound on My Trail』は、『Me and the Devil Blues』『Stones in My Passkey』と並んで、ロバートの死後における名声の土台となった。3曲とも1937年のテキサス州ダラスでの録音で、歌詞には悪魔のイメージが用いられている。
動き続けなきゃいけない
動き続けなきゃいけない
ブルーズがあられのように降ってくる
ブルーズがあられのように降ってくる
ああああああ
毎日毎日が俺には辛い
地獄の猟犬がついてくる
地獄の猟犬がついてくる
1938年8月の死の際、「毒を盛られて、四つん這いになって犬みたいに吠えた」とも言われているロバート・ジョンソン(享年27)。
だが、ベッドを共にした多くの女性たちの証言のほうが、クロスロード伝説の生温かい体臭を感じさせてくれる。
夜中に目を覚ますと、ロバートが月明かりを受けて窓辺でほとんど音を出さずにギターの弦を押さえていることがよくあったというのだ。視線に気づくと、ロバートはすぐに弾くのをやめた。まるで隠さなければならない秘密でもあるように。
演奏している時も別のミュージシャンからの視線を感じると、手を隠すなり背を向けるなりした。
ロバート・ジョンソンの伝説を映像化して広めたという点では、1986年の映画『クロスロード』を決して忘れてはならない。アメリカではケーブルTVで途切れなく放映されてきたおかげで、多くの視聴者の記憶に留められることになった。
「悪魔の養子」「地獄の保安官」を名乗ったピーティ・ウィートストローのようなブルーズマン。「悪魔を憐れむ歌」などを残した60年代後半〜70年代前半のローリング・ストーンズ全盛期。そしてブラック・サバスやオジー・オズボーン。悪魔のイメージは多くのミュージシャンを惹きつけてやまないのは、ロックの歴史を振り返れば明らかだ。
ロバート・ジョンソンは、これからも音楽ファンの永遠のロマンであり続ける。
文/中野充浩
参考・引用
・『ロバート・ジョンソン〜伝説的ブルーズマンの生涯』(ピーター・ギュラルニック著/三井徹訳/JICC出版局)
・『ロバート・ジョンソン〜クロスロード伝説』(トム・グレイヴズ著/奥田祐士訳/白夜書房)
・『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
・映画『クロスロード』