減税政策が国民から評価されない理由
岸田首相が発表した経済政策は、低所得者にはこれまでの支援と合わせて世帯で計10万円の給付を実施、それ以外は1人につき所得税3万円、住民税1万円の計4万円の減税を行うというものだ。
そうなると、自分が「10万円給付」と「4万円減税」のどちらに当てはまるのかが気になるところだが、10万円給付は住民税や所得税が非課税になっている世帯に限られている。
住民税非課税世帯となる年収の目安は、独身世帯の場合は100万円以下、会社員と専業主婦、子ども2人の計4人世帯の場合は255万円以下だ。
所得が低いなかでも、かなり生活が苦しい低所得者層に限られているといえるだろう。
つまり、物価高で苦しんでいる国民の多くは「10万円給付」ではなく「4万円減税」に限られるということであり、このことからネット上では有名なスラングになぞらえて「働いたら負け」という批判も飛び出している。
また、この給付と減税の間にあるのは金額の差だけではない。実施時期を巡っても、給付は年内に開始する一方で、減税は来年6月に行われる予定だ。
これは、給付は政府が予算を成立させればすぐに実行に移せる一方で、減税は法改正が必要となるためだが、今の物価高に苦しむ国民への経済対策としてはあまりに遅すぎるといわざるを得ない。
そのため、国会でも野党が「なぜ迅速な給付だけにしないのか」(立憲民主党の長妻昭政調会長)などと指摘しているが、岸田首相は「わかりやすく所得税・住民税という形でお返しすることが国民生活を支えるうえで重要」などという曖昧な答弁に終始した。
また、30日に開かれた自民党役員会では「国民全般に現金を広く一律給付する手法は、新型コロナ等自然災害級の国難とも言えるような事態に限るべき」と説明している。
しかし、4万円を給付ではなく減税にしていることに、経済対策として大きな意味があるわけではない。
特に、岸田首相が31日に国会で減税について「1回で終われるよう経済を盛り上げていきたい」と答えた通り、1回きりで終わるのであれば、わざわざその1回のためだけに税制を変えるよりも給付金にしたほうが手間が少ない。それでも岸田首相が減税にこだわっているのは「増税メガネ」というイメージを払拭したいからではないか。
これには全国紙の政治部記者も「増税と批判されているから減税政策で打ち消そうとする。あまりにも安直な考えだ」とため息をつく。