「木原さんには『拒否権』がある」
これに対し、アクセルとブレーキを使い分けて、政権の浮沈に関わる重要政策をコントロールしているのが、木原だ。
「異次元の少子化対策に挑戦する」。
2023年1月4日、岸田が年頭の記者会見で打ち出した少子化対策に「異次元」の言葉が躍った。
奇をてらわない岸田らしからぬ言葉選びもさることながら、官邸スタッフが驚いたのは、児童手当の拡充を柱に掲げたことだ。財務省は児童手当の拡充は少子化対策への効果が薄いと否定的だった。
なぜ、「終わった話」(財務省幹部)の児童手当が突如、重要施策に躍り出たのか。木原は、首相会見から2日後の報道番組で「異次元」の名付け親は「私ではない」とけむに巻いた。
だが、財務省幹部は「『異次元』と言い出したのも、(目玉政策の)児童手当の拡充にこだわっているのも、木原さんだ」と言い切る。
木原は東大法学部を卒業後、財務官僚を経て05年に初当選。岸田派の政策ブレーンとして頭角を現し、派閥では事務局長を務める。岸田が総裁選に出る際の公約も手がけたとされる。
反面、「支持率に一喜一憂するべきだ」と、世論には人一倍敏感な側面も併せ持つ。
コロナ禍が落ち着きを見せ始めた2022年6月、国土交通省は冷え込んだ旅行需要を回復させるため、地域内の旅行に限った支援策「県民割」を、都道府県の判断で全国から受け入れられるよう拡大する計画を官邸に示した。
秘書官の多くは前向きだったが、木原の答えは「ノー」だった。
「(7月の参院の)選挙前に、都道府県にリスクを押しつけるなんてとんでもない」。
実施は最終的に10月までずれ込んだ。
ある経済官庁の幹部によると、世論の反発を先読みし、コロナ対策の緩和にストップをかけたのも木原だったという。
幹部は「嶋田、木原は岸田を頂点とした二等辺三角形ではない。木原さんには『拒否権』がある」と解説する。
岸田が自らの政権構想をまとめた著書『岸田ビジョン』には、こんな記述がある。
絶えずトップダウンでは国民の心が離れていってしまう。絶えずボトムアップではなかなか決められない。
官僚からのボトムアップを重視する嶋田と、官邸からのトップダウンを指揮する木原。
岸田は役割が異なる2人の「番頭」を据えることで、自ら掲げたビジョンを実践しているように見える。
だが、官邸が省庁の幹部人事を掌握するため、第2次安倍政権時代の14年につくられた内閣人事局は今も健在だ。圧倒的な人事権を背景に官邸が官僚を抑え込む可能性は、今もくすぶる。
あるベテラン官僚は、「秘書官が資料の『てにをは』にまで口を出し、司令官みたいになっている」と語る。
政府関係者は、かつてのように官邸からの圧力が強まりつつあることを懸念する。
「政権発足当初は風通しが良かったが、官邸スタッフと霞が関の官僚の間に摩擦が起き始めている」
文/朝日新聞政治部 写真/Shutterstock
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