「よそのジムならもっと早く世界挑戦できたかもしれないけど…」
だが、そもそもなぜ、阿久井は倉敷守安ジムでボクサーを続けてきたのだろう。単刀直入に尋ねた。
「守安ジムが好きだからです。もしかしたらよそのジムだったらもっと早く世界挑戦できたかもしれませんけど、そもそもここ(守安ジム)じゃなかったら、ここまでボクシングを続けてこれなかったでしょう」
では、今まで移籍しようと思ったことはない?
「それはありますよ。スパーリングパートナーも指導者もジムにいないとき、ふと思ったこともあります。でも、ここまできたからには、結局ここでやっていてよかったなと」
会長は厳しくない?
「サンダル履いてたら、足引っ掛けて転ぶなよと言われたりとか(笑)。あとは『手数少ねえぞ』とか基本的なことを指摘してくれます。天狗になっちゃいけないので、有り難いですね」
守安会長は今年70歳を迎えた。今でも仕事がない日は毎日顔を出すという一彦さんは、「会長は昔とは、まるで別人のように優しくなった」という。
最近はもう厳しく叱ったりすることはないのか。守安会長に尋ねると、リングのほうを見つめながらこう言った。
「時代が違うですからね。もうあんましごちゃごちゃいうて、選手らを辞めさせたりしとうないですからね……」
阿久井の世界戦は、22年前のウルフ時光のときと違い、大手の帝拳ジムにプロモーションを一任している。「本当に感謝しかないです」と会長は話す。
「3度目」の世界戦は2024年1月23日にエディオンアリーナ大阪で行われる。
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#1 地方ジムからの世界王者は戦後3人だけ。岡山のど田舎ジムから世界に挑むユーリ阿久井政悟…“かませ犬”として地元判定に泣いた会長の悲願
取材・撮影・文/田中雅大