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13歳の初試合で井上尚弥にKO負け

ドイツの詩人ゲーテに「光強ければ影もまた濃い」という格言がある。今のボクシング業界の光は国民的スター選手ともいえる井上尚弥だろう。では、影に隠れているボクサーは誰か。

「尚弥はライバルというか目標ですね。背中を追い続けている存在です」(中嶋一輝選手、以下同)

中学入学の直前、漫画『はじめの一歩』をきっかけに地元・奈良県のボクシングジムに入門して2か月後、中嶋一輝は初めてアマチュアの試合に出る。自信があった。

「ジムに入ってすぐ、同じ年くらいの子達をスパーリングで全員ボコボコにできたんですよ。少林寺拳法も小1からやってたし、試合当日に聞くと相手は同じ学年。楽勝やと思って喧嘩のつもりで出場したら、1ラウンドで一瞬でボコボコにKO負けしました。そのときの相手が(井上)尚弥です」

「ぱっと世界王者になって金稼いで帰ってくるわ」。ボクシング界のスター・井上尚弥の影に隠れたもう一人の天才。練習は月3回、投げ飛ばし、2日酔いで計量失格…それでも国体王者になった中嶋一輝の現在_1
緊張感のある練習。背景には同じジムに所属する井上尚弥のポスターがみえる
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右利きだったが、井上からの敗戦を機に同じジムで練習をしていたアマチュア王者の真似をしてサウスポーにした。そこからは猛烈に練習に励み、中学卒業までにU-15大会で優勝するほどの実力となった。

「あの頃が一番ボクシングに夢中でしたね。ただほんと勉強もやってないどころか、ボクシング以外は家にも帰らず遊んでばっかりで。卒業後どうしよかなと思ってたら、週末に練習に行ってたボクシング部のある奈良工業高校(現奈良朱雀高校)から『ぜひスポーツ推薦の特待生として来て下さい』と言われたんです。

『そこまで言うならしゃあないなあ』って、調子乗ってなんも勉強せずに受験したら普通に落とされたんですよ。0点とらん限り大丈夫と言われてたんですけど、数学かなんかが0点で(笑)。で、仕方なく同じ学校のスポーツ推薦やけど、定時制の方に4年間行くことになったんです」

こうして中嶋は期待を受けて高校のボクシング部に入部したものの、入部後まもなく競技への情熱は急速にしぼんでしまう。