CIAによるウクライナ情報機関の能力強化
今回のポスト紙の記事については、日本の主要な報道各社も伝えている。
しかし、いずれも冒頭に紹介した「モスクワでの暗殺はウクライナ機関が実行していた」という点に焦点を置いたものだ。たしかに新しい情報なので報道する価値はあるが、実はこの記事の注目情報はさらりと書かれた別の部分にある。
それは、なんと2014年のロシアのクリミア侵略の時期からCIAが介入してSBUやGURを育成し、最新の情報収集用機材・施設を提供し、それが昨年のロシア軍の攻撃に対し、戦力に劣るウクライナ軍の善戦に繋がったというのだ。
ウクライナ軍の善戦に貢献した西側諸国の支援については、武器の供与がこれまでずっと大きく報じられてきた。しかし、実際はそれだけではない。ロシア側の情報を収集するウクライナ側の活動を支え、同時にロシア情報機関からウクライナ側を守る、いわゆる「情報戦」でCIAが決定的な役割を果たしていた。
この情報支援については、ときおりメディアでも推測されていたが(※筆者も自分なりの分析でこのテーマの記事を複数のメディアで発表している)、実際の詳細は最高機密情報であり、確認が難しかった。それが今回、初めて明らかになった。
CIAはこれまで数千万ドルを投じて、ウクライナの情報機関の能力強化を進めてきた。まず、元ロシア連邦保安庁(FSB)ウクライナ支部だったSBUにはロシア側の内通者がいる懸念があったため、新たに第5局という部局を作り、そこから支援を始めた。その後、イギリスの情報機関のMI6と連携する第6局という新部局も作られている。
そこから信頼できるSBU工作員と連携し、強化していった。CIAによる訓練施設はキーウ郊外に設置された。目的はウクライナ東部の親ロシア派支配地域で情報収集し、敵陣営に情報提供者を獲得するために、敵地に潜入して活動できる要員を育成することだった。ロシア側の電話や電子メールを傍受する機器を供与したほか、潜入用の敵陣営の制服まで準備した。