なんか危なそう」を乗りこえるには

さらに多くのペイが、システム障害で決済できなくなるトラブルを起こした。特に、セブンイレブンの「セブン・ペイ」が、サービス開始早々にトラブルに見舞われ、すぐにサービス中止に追い込まれた一連の騒動は、多くの人にネガティブなイメージを植え付けた。

その結果、もともとリスク回避を選びやすい日本の消費者の中で、「ペイはまだまだ信用できない」という先入観が作られてしまったのである。

完全キャッシュレスの食品スーパー、「フーマフレッシュ」が当たり前に利用されている
完全キャッシュレスの食品スーパー、「フーマフレッシュ」が当たり前に利用されている

キャッシュレスが浸透している国では、まず安心できて、楽で、しかもお得だから、それが当たり前のように受け入れられている。キャッシュレスにおいては、「まず安全、そして楽、さらにお得」という優先順位が、決定的に重要となる。

日本にキャッシュレス決済が浸透できていない原因は、サービス開始時の失敗によって、この優先順位が崩れてしまった点にある。「お得だけど、まだ安全ではなく、少し不便」なサービスというのが、いまだに日本のキャッシュレス決済の現状といえるだろう。

また、日本は海外と比べて、駅やコンビニにATMが普及していて現金の出し入れが簡単で、「Suica」などの便利な交通系タッチ決済が先に浸透している。そのため、「現金と同じく安全で、交通系ICと同じくらい便利で、なおかつペイのほうがお得」という高いハードルをクリアできなければ、普及が進みにくいという難しさもある。

日本がキャッシュレスの遅れを取り戻すには、若い消費者に向けて「お得」をポップな広告でアピールし続けるよりも、「なんか危なそう」と敬遠している中高年層に対して、「まず安全、そして楽、さらにお得」という優先順位を取り戻させるマーケティングを進めるほうが重要となる。

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注意すべきは、キャッシュレスは目的ではなく手段である、という点だ。キャッシュレスは、モバイルオーダー・ビジネスの前提条件になる。キャッシュレスが浸透できていない結果、世界の成長市場であるモバイルオーダーで、日本が周回遅れに取り残されてしまっている現状は、もっと認識される必要があるだろう。

また、「なんか危なそう」と思われてキャッシュレスすら普及できていない国では、生成AIや自動運転、NFTやビットコインなどが、同じように「なんか危なそう」で進まないことは容易に想像できるだろう。

多くのデジタル・テクノロジーが、日本でだけ停滞してしまうことにならないようにするには、「『なんか危なそう』を乗りこえる」という課題にもっと向き合わなければならない。


文・写真/永井竜之介

※参考文献

経済産業省「ニュースリリース 2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html

36Kr Japan「中国・北京、地下鉄も「手のひら」認証で乗車可能に。テンセント、「WeChat Pay」に掌紋決済を正式導入」
https://36kr.jp/233682/

日経XTREND「テンセントが挑む「手のひら認証技術」 複数の取り組みが始動中」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00327/00153/

DGLAB HAUS「キャッシュレスから「スマホレス」の時代へ 中国で進む生体認証決済」
https://media.dglab.com/2022/11/18-toho-01/