映画館はタイパが悪い

お金や時間をわざわざかけたのにつまらない、役に立たないという結果が生まれると、若者はそれを「損」をしたと解釈する。

若者の言う損とは、従来の費用対効果に見合わない消費結果に加えて、その消費を行ったことで発生する他の消費機会の損失、(自分に関係なくても)他人だけが得をしている状態など、消費によって生まれる負の影響のことを指す。

「こんなつまらないモノを消費しなければ、他の楽しいモノが消費できたかもしれないのに……」「みんなはタダでもらっているのに、私は定価で買ってしまった……」など、実際に損失が生まれていなくても、マイナスな感情に働くことを避けたいと考え、損を回避することが消費を決定づける大きな要因になっているわけだ。

「映画館はタイパが悪い」…Z世代の4割以上が視聴前にネタバレを踏む衝撃!「予期しない感情の起伏を得ることがストレス」_3
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若者が映画、とくに映画館での視聴経験に対して抵抗感を示す理由としては、以下のようなものが挙げられる。

・映画料金を払う余裕がない(他のコトに使いたい)
・おもしろいかわからない映画に時間もお金もかけたくない
・鑑賞中、他のことができないことに対するストレス(マルチタスクで情報を消費したい)
・予期しない感情の起伏を得ることがストレス(だからネタバレを好む)
・テレビでもリアルタイム視聴以外にTVerやサブスクがあり、時間のコントロールは消費者側にイニシアティブがあるのに、映画館の上映時間に予定を合わせたり、途中で止めたり飛ばすことができないといったように、コンテンツ側に時間のイニシアティブがあることが不便
・劇場公開から配信までの期間が短くなっている昨今、わざわざ足を運んで映画館で視聴する動機がない

映画鑑賞は若者にとって、タイパ的にもコスパ的にも決していい消費対象ではないがゆえに、「いつ観るか」よりも「どのように観るか(消費するか)」がまず消費者にとっての関心事となる。

いかにお金をかけずに視聴するかといった視聴媒体の検討や、ファスト映画や倍速視聴など、いかに「損に対するリスクを軽減できるか」という手段にばかりに気がいってしまうのだろう。

文/廣瀬 涼 写真/shutterstock

#2『今すぐ「何者か」になりたいZ世代がヲタ活にはまるワケ…自分がオタクであると発信することはアイデンティティを発信することと同義なのか』はこちらから

#3『「早く答えが知りたい」「近道がほしい」…タイパにこだわる人が絶対手に入れることができない「消費すること」で生まれるストーリーとは』はこちらから

『タイパの経済学』 (幻冬舎新書)
廣瀬 涼 (著)
「映画館はタイパが悪い」…Z世代の4割以上が視聴前にネタバレを踏む衝撃!「予期しない感情の起伏を得ることがストレス」_4
2023/9/27
¥1,056
232ページ
ISBN:978-4344987081
なぜ異常なまでに時間に囚われるのか?

●動画はとにかく「短く」
●スポーツ・映画は観ない
●スキマ時間がなくなった
●いますぐ「何者か」になりたい
●居場所はSNSにあればいい
●同時に4人以上と連絡をとり、1週間以内にデートの約束
●所有しなくてもサブスク、シェア、メルカリで十分
●大学生の生活費が30年で4分の1に
●「やったつもり」になれる市場の拡大
●「オタク」は付け替え自在な“タグ”になった

……「とにかく失敗したくない」Z世代の消費行動のナゾを解く!


Z世代など若者を中心に、コスパならぬ「タイパ」(時間対効果)を重視する価値観が当たり前となった。
時短とは異なり、「限られた時間でより多く」「手間をかけずに観た(経験した)状態になりたい」という欲求が特徴で、モノやコンテンツをコミュニケーションの“きっかけ”や“手段”ととらえているという。
その背景にはサブスクの普及、動画のショート化、不景気などの環境変化と、「時間を無駄にしたくない」「いますぐ詳しく(=オタクに)なりたい」といった意識の変化がある。
もはや彼らは純粋に消費を楽しむことはできないのか?
一見不合理なタイパ追求の現実を、気鋭の研究者がタイパよく論じる。

第1章 タイパの正体
第2章 「消費」されるコンテンツ
第3章 Z世代の「欲望」を読み解く
第4章 タイパ化するマーケット
第5章 タイパ追求の果てに
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