映画館はタイパが悪い
お金や時間をわざわざかけたのにつまらない、役に立たないという結果が生まれると、若者はそれを「損」をしたと解釈する。
若者の言う損とは、従来の費用対効果に見合わない消費結果に加えて、その消費を行ったことで発生する他の消費機会の損失、(自分に関係なくても)他人だけが得をしている状態など、消費によって生まれる負の影響のことを指す。
「こんなつまらないモノを消費しなければ、他の楽しいモノが消費できたかもしれないのに……」「みんなはタダでもらっているのに、私は定価で買ってしまった……」など、実際に損失が生まれていなくても、マイナスな感情に働くことを避けたいと考え、損を回避することが消費を決定づける大きな要因になっているわけだ。
若者が映画、とくに映画館での視聴経験に対して抵抗感を示す理由としては、以下のようなものが挙げられる。
・映画料金を払う余裕がない(他のコトに使いたい)
・おもしろいかわからない映画に時間もお金もかけたくない
・鑑賞中、他のことができないことに対するストレス(マルチタスクで情報を消費したい)
・予期しない感情の起伏を得ることがストレス(だからネタバレを好む)
・テレビでもリアルタイム視聴以外にTVerやサブスクがあり、時間のコントロールは消費者側にイニシアティブがあるのに、映画館の上映時間に予定を合わせたり、途中で止めたり飛ばすことができないといったように、コンテンツ側に時間のイニシアティブがあることが不便
・劇場公開から配信までの期間が短くなっている昨今、わざわざ足を運んで映画館で視聴する動機がない
映画鑑賞は若者にとって、タイパ的にもコスパ的にも決していい消費対象ではないがゆえに、「いつ観るか」よりも「どのように観るか(消費するか)」がまず消費者にとっての関心事となる。
いかにお金をかけずに視聴するかといった視聴媒体の検討や、ファスト映画や倍速視聴など、いかに「損に対するリスクを軽減できるか」という手段にばかりに気がいってしまうのだろう。
文/廣瀬 涼 写真/shutterstock
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