今すぐ「何者か」になりたい
タイパを追求したコンテンツ消費を通じて、「何者か」になりたいと考える若者もいる。
SHIBUYA109 lab.「Z世代のヲタ活に関する意識調査」によると、Z世代の82.1%が「推しがいる/ヲタ活をしている」と回答している(図3)。
ヲタ活(オタ活)はオタク活動のこと。推し活はオタ活の一環で、自分が推しているアイドルや俳優、キャラクターなどを愛でたり応援したりする活動のことを指す。Z世代の8割が何かしらのオタクであると自身を認識しているわけだ。
オタクという言葉に抵抗感を抱く読者もいるかもしれないが、この言葉が「マニア」や「コレクター」という意味を含むことから、それ以前の世代が持つようなネガティブなイメージをZ世代は抱いていない。
むしろ、何かしらの対象や趣味に熱中している人というポジティブな印象が持たれているらしく、自身がオタクであるということを積極的にアピールしているようだ。
SHIBUYA109 lab.によると、若者の言うオタクという語は、「ファン」と「お金や時間をたくさん費やしているもの」という2つの意味で使われているという。
前者の「ファン」は人を指しており、コンテンツ嗜好者群を指していたオタク本来の意味合いと同様の使われ方がされている。一方、後者の「お金や時間をたくさん費やしているもの」は興味対象そのものを指しており、「趣味」と同じ意味で用いられている。
そこから転じて、オタクという言葉がアイデンティティと同義で使用されており、趣味に対して時間やお金を消費する「オタ活」を通して、自身のアイデンティティを充足したり、発信しているわけだ。
一方で、電通ギャルラボ「第2回#女子タグ調査2017」によると、調査対象である12〜39歳女性の81.8%が何かしらのジャンルのオタクであり、一人あたり平均5.1個のジャンルにおいてオタク的資質を持ち合わせていたという。
若者はさまざまな対象に興味があり、興味を持っているというモチベーション自体をオタク的と考える。そのため、一つのコンテンツに対する愛情が一貫しているわけではなく、その場そのときで自身のアイデンティティ(何が好きか)も変化するのである。
このような背景から、興味対象を消費する際に、自分にとって特別なモノに消費をするという意気込みを「オタ活」という言葉を通して発信していると筆者は考えている。
若者にとって、自身がオタクであると発信することは、自分自身が何者であるか=アイデンティティを発信することと同じ。
日常生活におけるプライオリティは高くなり、人間関係の構築においても、「自分が何のオタクか」「自分は何オタクと見られれば円滑なコミュニケーションをとれるのか」「他人から自分は何オタクと思われているのか」「自分は何のオタク=どのようなアイデンティティを持つ人と交友関係を築きたいのか」ということが重要になるのである。