映画の倍速視聴は定着するか?

「倍速視聴」という言葉がここ数か月話題になっています。

もともと、この言葉は『「映画を早送りで観る人たち」の出現が示す、恐ろしい未来』というWeb連載の記事(講談社現代ビジネス/2021年)をきっかけに広まり始めました。その記事で「若者たちは映画やアニメーションを早送りで観ている」と非常にセンセーショナルに紹介され、ネット上で話題になったのです。

そして、今年の4月にそのネット記事をまとめて加筆修正した『映画を早送りで観る若者たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』という本が発売されました。本書の刊行によって、マスメディアを巻き込んだ議論が再び巻き起こっているのです。

「倍速視聴」の加速で、映画や音楽を脳に“書き込む”時代がやってくる?
『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』稲田豊史 光文社新書 990円(税込)

本書の著者は、映画誌編集部に在籍していたこともあるライター・編集者の稲田豊史。稲田は、映画ライターでもないような若者たちが、かつて自分が業務として仕方なく実践していた映画鑑賞方法と同じような仕方で映像コンテンツを消費していることを紹介しています。

若者たちが倍速視聴をする背景には、ネットフリックスやアマゾンプライムをはじめとするサブスクリプション動画サービスの普及があります。著者の指摘によれば、ネットフリックスが倍速再生が可能なサービスであること、月額定額サービスのため限られた時間のなかでできるだけ多くのタイトルを消化することが「コスパ」ならぬ「タイパ(タイムパフォーマンス)を向上させる、と考えられているようです。

また、LINEなどのメッセンジャーサービスとスマホによって常に友人たちとコミュニケーションすることが可能になり、仲間内のコミュニケーションから脱落しないために、話題作のあらすじくらいはフォローしておく必要が生じているのだとか。

わざわざ倍速にしてまで大量の作品を鑑賞するのだから、さぞかし映画が好きなのかと思いきや、YouTubeなどによって同世代の「オタク」の圧倒的な知識量を目の当たりにしている現代の若者は、オタクに憧れつつもオタクになれない諦めを前提にしている、と著者は言います。