「若い世代の力になりたい」という気持ち
——第3話の「アパートの近所に住む独身女性・環と少年・周」の話は、昭和のホームドラマのようでした。
この話は、30代半ばで独身かつ不治の病にかかった主人公・環が、近所に住む少年・周と出会って、彼のお世話をすることで充実した時間を過ごす物語です。70年代末ぐらいの設定で、向田邦子さんや山田太一さんのような世界観にしようと思っていました。
このエピソードも、想定よりもだいぶ話の方向性を変えました。
——どのように変えたのですか?
担当編集さんをはじめ、自分の周りの人たちが50歳に近くなったぐらいで「若い世代の力になりたいと思うようになった」と話されることが多くなったので、それを反映させたくなりました。
環は、周のお母さんから「どうして私たちに優しくしてくださるの?」と聞かれますが、それは環の中にある「若い世代の人たちを助けることができたらとてもうれしい」という気持ちゆえなんです。
年齢を重ねると、人には親心みたいなものが生まれると思うんです。子どもの有無に関係なく、男性にも、独身の人にも芽生える感情。漠然とこういう気持ちを持っている人は多いように思います。
若い人に「何か伝えたい」という気持ちが空回りすると、説教になってしまうのかもしれないですが……。