インボイスが経理担当者のモチベーションを下げている
このような状況では経理担当者のモチベーションが下がるのも必然であり、冒頭で紹介したとおり、経理担当者の33%がインボイスによる業務の変化・増加を理由に「異動・退職・転職」を検討するという異常事態となっている。
質問:
2023年10月にインボイス制度が導入された場合、 経理としての業務は変化・増加することが予想されます。 インボイス制度が原因で経理の仕事を離れたいと思ったことはありますか。
回答:
業務が増えてもこのまま経理を続けるつもり 51.6 %
業務が増えたら退職/転職したい 24.0%
業務が増えたら異動したい 9.3%
その他 9.4%
業務が増えることはないと思う 3.7%
むしろ業務は減ると思う 2.0%
インボイス制度が導入された場合、業務が増えると覚悟している経理担当者は実に約85%。しかし、間接部門(経理・人事・総務等)を軽視する傾向にある日本企業において、人員増や給与・手当増などのフォローがあるとは考えにくい。 そうした背景もあり、インボイス導入後の業務増加を理由に「異動 」もしくは「 退職 / 転職 」したいと考える経理担当者は実に33%にのぼる。
さらに、10月から始まる地獄を見越して、アンケートの自由回答には悲鳴のような経理担当者の声が並ぶ。
過去も含めた取引先全てに対して登録状況や番号を調査することが現実的ではなく、親会社の方針とかみあわず動き出せないが、社内では急かされるため困っている。
(従業員規模500人未満の企業)
システム改修が追いつかない。大企業の関係会社というだけで一切支援などはない(ましてやロイヤリティを支払う側)のに、補助金対象から外される中規模事業者であるため、費用負担もなくコスト負荷が高い。
(従業員規模500人未満の企業)
少数精鋭で分業している経理社員の退職がすでに起き、制度導入後、ドミノ倒しで退職が続く恐れ。財務省は社員採用コストを負担してくれないでしょ?
(従業員規模500人未満の企業)
インボイス導入と同時に廃業する業者が複数あり、その後の人材確保が困難になるため事業の縮小及び利益(納税額)の低下が確実視できる。
(従業員規模50人未満の企業)
仕入税額控除の対象になるか否かの情報が現場から経理部門に適切に集約できるかが疑問。経理担当者以外への周知が致命的に欠けており、法に基づく運用自体が現実的でない。
(従業員規模10人未満の企業)
出典:STOP!インボイス 「経理担当者向け「インボイス制度」に関する意識調査」
当然ながら経理担当者はあらゆる企業のバックオフィス業務を支える存在である。3人に1人が退職したり、残ったとしても著しくモチベーションが下がった状態では、企業活動に支障が出ることは必至。人員不足やモチベーション低下によって経理部門だけではインボイス制度開始後に発生する新たな事務処理をこなせない状況に陥れば、その皺寄せはライン部門(直接売上に関わる部門)に及ぶだろう。つまり、インボイス制度の悪影響は全ての業界のあらゆる部署の会社員にも及ぶといえるのではないか。
*悪影響の全体像は筆者のtheLetter「国民全員に悪影響が連鎖するインボイス。問題と被害の全体像」(2022年9月29日)参照
文/犬飼淳