海外共同制作でドラマ界の新しい一歩を踏み出した『DCU』
数年前に、この危機的状況を回避しようと試みたドラマがあった。それが『DCU』(TBS系列・2022年)だ。
TBSとハリウッドのケシェット・インターナショナル社、ファセット4メディア社らが共同制作となった。いずれの会社もエミー賞、ゴールデン・グローブ賞といった錚々たる受賞経験もある、名作を生み出してきた制作会社だ。
それまでの日本のように、制作した作品を国内だけで見せるのではなく、常に世界に発信することを意識している。脚本家こそ1名だったけれど、海上保安庁に新設された集団による、国境を行き来する水中事件や事故の捜査……という、リアリティのあるドラマが描かれていた。
海上保安庁全面協力、多くの水中撮影など多額の予算がつぎこまれていた。内容云々の前に、スケールの大きさに息を呑んだ。ただ噂程度の話ではあるが、予算が足りなかったとも、オーバーしたとも……。
『DCU』と『VIVANT』の意外な共通点、俳優・阿部寛という存在
この作品の主演は阿部寛だった。そう、『VIVANT』で主役喰いする場面も多々見られた彼だ。堺雅人演じる、別班員の乃木憂助を追いかけ回す、警視庁公安部の野崎守を見事きに演じ切っていた。
一方、『DCU』で阿部が演じていた新名正義は、前出の野崎から笑いをすべて取りあげたような真面目な男。とにかく海を荒らす者、犯罪者を許さない。そこにはバディである、若き隊員の瀬能陽生(横浜流星)に言い出せずにいた秘密があったから。男同士の関係に隠された何か。これは『VIVANT』にもあったシチュエーションだ。
奇しくもTBSが多額の予算と人材を投入して、失敗は許されない背水の陣で臨んだ二作。ここに必要だったのは、阿部寛だった。
おそらく二作品とも、国内だけのリリースを考えているのではなく、日本から世界へ作品を届けることを睨んでいた。従来の俳優陣だけを出動させていても、この作戦は失敗に終わる。欲しいのはそこにいるだけで、訴求力、インパクトがある役者の存在。それらを総合すると、阿部そのものだ。
阿部寛といえばまず思い浮かぶのは、日本人を逸脱した顔立ち。『VIVANT』の序盤でも、何度かモンゴル衣装を纏って登場していたが、馴染み方が尋常ではなかった。
それからモデル出身という、長身。ただ背が高いだけではなく、骨格も日本人離れしている。こんなウエポンを持ち合わせていれば、その場に立っているだけで抜きん出た存在感を感じさせるのは当然だ。
日本人俳優は小さい、細いと揶揄されて、海外では、なかなか通用することが難しかった。それでもと夢見た俳優が日本を離れて、ようやく最近では国外で活躍している者も出始めた。近年の目立った俳優といえば、渡辺謙だろうか。ただ正直なところ、今回のTBSドラマ出演によって、阿部寛がその位置に君臨する日も近いような気がした。