阿部寛を地上波ドラマで見るために必要な決断とは?

阿部寛といえば、2003年近辺から主演作の数を着実に増やしていった印象だ。

ちなみにイメージ通りの作品で個人的に面白かったのは『白い春』(関西テレビ、フジテレビ系列・2009年)。9年間の刑期を終えた暴力団員の佐倉春男(阿部)が、娘と出会って生活を共にしていく物語。役柄の背景を読むだけで香ばしい。当時、映画『崖の上のポニョ』の主題歌を歌った大橋のぞみちゃんが、娘役を演じたことも話題にあがった。

ガヤガヤと彼の周囲を作品が取り囲んでいく中、機運となったのは『結婚できない男』(関西テレビ、フジテレビ系列・2006年)の主演だった。あのイケメン阿部寛が、完全なコメディドラマで偏屈男を演じたのだから、ギャップにもほどがある。

ただこのキャスティングは見事当たり、映画『テルマエ・ロマエ』のローマ人役となる。監督が彼を見てメイクの必要がないと言ったほど、適任の役だ。日本人離れをしたビジュアルの俳優による、シリアスにも、笑いにも転じられるスターの誕生だった。

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あの声のかけづらいコワモテな印象が演じているだけかと思いきや、普段もあんな感じらしい。『VIVANT』の番宣で出演した『バナナマンのせっかくグルメ』(TBS系列)で、オーバーオールを着て食レポをしているときでさえも、迫力はあった。

おそらくご本人はいたって普通にしているのだと思うが、ちょっとした仕草、発言が異常なほどドラマティックに映り、バラエティ番組を盛り上げていた。今、日本の俳優でそんな存在が他にいるだろうか。

阿部のような俳優を日本に引き留めておくには、今のままの日本の映画、ドラマ界では無理かもしれない。彼に限らず、他の俳優も日本に見切りをつけて、とっとと海外進出をする可能性だってある。

それというのも、今は動画配信サービスの動きが活発化。渡米せずとも、サブスクオリジナル作品に出演すれば、世界中に存在をアピールすることができる。日本の地上波ドラマにとどまっていては、叶えられない目標がいとも簡単に可能なご時世だ。グズグズしていると阿部寛みたいな至宝は、地上波に興味を示さなくなると思う。

この雪崩を食い止めるのが、やはり『VIVANT』の思い切った予算と人材と手間のかけ方だ。予算がないないと騒いでも、探せばあった。無い袖は振れてしまった。明るい日本のメディアの夜明けを目指して、本当に各局頑張ってほしいものである。

文/小林久乃