親に勝手に携帯を見られ、好きだった女の子について指摘される
ところがある日突然、父親から「マナと付き合うのはやめなさい」と言われた。
「えっ……?」
絶句していると、
「そんなことをしている暇があったら勉強しろ。ここのところ成績がよくないじゃないか。わかったな?」
そうたたみかけるように言って、去っていった。
なぜ父親はマナのことを知っている?
トモヤは親に好きな女の子の話なんてしたためしがない。学校でも、マナとの交際を知っている人はほとんどいない。まさか、携帯を盗み見ているのか。
トモヤは怒りに震えた。そして両親のいる部屋に行き、わめいた。
「勝手にオレの携帯見てるんだろ! 親だからって、そんなことしていいのかよ!」
母親は、トモヤの携帯をチェックしていることを認めた。いかがわしいサイト、危険なサイトにアクセスしていないか監視するのに飽き足らず、どんな友だちとどんな会話をしているのかを確認していたと。
父親は一笑に付した。
「トモヤのためを思ってやっていることだ。親として当然の権利じゃないか」
トモヤは絶望した。この人たちには何を言ってもムダだ。
マナとの関係もぎこちなくなり、自然消滅してしまった。
トモヤは表向きは父親に逆らわないようにしながら、家を出ることを目標にした。東京の大学に進学すれば自由になれる。勉強なんてどうでもいいし、とくにやりたいこともなかった。どうせなら、いままで禁止されていたことをやろう。そうしてひとりで生活する中でパチンコにハマったのだった。
パチンコ屋で誘われた謎の高額アルバイトに手を染める
あるとき、パチンコ店で出会った同年代の男、タケルに声をかけられた。
「簡単だけど稼げるバイトがある」
タケルもトモヤと同じようにパチンコにお金をつぎ込んでおり、経済的に困窮していた。その高額バイトによって助けられたという。インターネットを通じて指示を受け、その通りに動くだけでなんと1回10万円ももらえるらしい。それも、指定の住所に住む人から紙袋を受け取って、それをコインロッカーに入れるだけという簡単なものだ。
タケルは闇サイトを見せながら、ヘヘヘと笑った。
これは……、やばいやつなんじゃないのか。
トモヤは犯罪の匂いを感じた。
しかし、何も知らない、何も気づいていないことにした。何かあったら、「そんな説明は受けていない」「自分は何も知らなかった」と言えばいい。
そう思えば躊躇はなかった。こんなおいしい話に乗らないわけにはいかないだろう。何度も犯行を繰り返した。
このバイトを始めて3カ月ほど経った頃、警察がアパートにやってきて逮捕された。トモヤは少年鑑別所に入所した。
面会に来た両親は、激しく怒り、悲しんだ。
「してはいけないことを、あれほど教えてきたのにお前は何を聞いていたんだ!」
「そんなふうに育てた覚えはない!」
ふたりはトモヤを責め続けるのだった。