世間体にうるさく、社会からどう見られるか気にする父
世間体にもうるさかった。目立つことをすると「社会からどう見られるか気にしなさい」と言う。小学生のトモヤが友だちとケンカをしたときは、とくに厳しく𠮟りつけた。「違うんだよ、あいつが先にぼくのことを」と言いかけたトモヤの言葉を無視し、相手の親に謝罪しに行った。
母親もこの方針に賛成している。
「結婚相手は公務員がいい」と言われて育ってきたため、公務員である夫のことを尊敬しており、家庭内のさまざまな意思決定や教育方針は夫に従うのが正しい選択であると思っていた。
夫に言われるがままに監視役を引き受けることも多く、指示に従っていないとトモヤを𠮟った。
そんな両親のもとでトモヤは窮屈な生活をしいられていた。とくに妹たちを見ると不満が募る。両親は明らかにトモヤには厳しく、妹たちには甘いのだ。
隣の席の”天使”マナが、誘ってくれたが…
たとえば携帯がほしいと言っても、トモヤに対して父親はなかなか許してくれず、誓約書のようなものを書かされたが、妹たちはいとも簡単に手に入れた。
「なぜ自分だけがこんな思いをしなきゃならないんだ」
トモヤは強い不満を持っていたが、「お前のためだ」という言葉がのしかかって、反抗することができずにいた。
期待されていることを嬉しく思う気持ちもないわけではない。口うるさい親だが、言われた通りにしておけば、大きな問題にならないのも事実だ。健康で元気だし、サッカーもそこそこできるし、成績もよかった。
そんなトモヤが親に対して感情をぶつけたのは中学2年生のときだ。
授業で使う持ち物を忘れて困っていると、隣の席のマナが何も言わずそっと貸してくれた。
「さっきは、ありがとう」
すまなそうに声をかけると、マナはにっこり微笑んで「ううん、全然。困ったら言ってよ」と言ってくれた。その後も、よく気づかって助けてくれるのだった。
トモヤにはマナが天使のように思えた。
「来週、みんなでショッピングモールで遊ぶけど、トモヤくんも来るよね? ゲームセンターとかカラオケとかあるんだって」
マナが誘ってくれたのは嬉しかったが、あの父親が許すはずがない。
家に帰ってから携帯でマナに「ごめん。うちの親めんどくさくて。勉強しろってうるさいし、そういうの難しいかも」とメッセージを入れた。
「そっか。厳しいんだね」
マナは否定することなく、話を聞いてくれた。
それ以来、トモヤは毎日のようにマナとメールでやりとりをした。マナに恋心を抱いていたトモヤは、それが幸せなひとときだった。