「嫌韓」「反日」の流れを止められない?

日韓関係の破局を食い止める「安全装置」も機能しなくなって久しい。

現大統領、尹錫悦の外交ブレーンである国立外交院長の朴喆熙は日韓関係が「国交正常化後で最悪」と呼ばれていた19年の日本記者クラブでの講演で、最近の日韓関係について、①政府当局間を含めて意思疎通のパイプが極めて細くなった、②ともに「自分が正義、相手が悪」という善悪二元論に陥っている、③相手の価値を軽視し、「嫌韓」「反日」の流れを止められない――と指摘。「日韓関係が難しくなった」と話した。

超党派でつくる議員連盟や自民党の外交部会・外交調査会は一昔前まで、政府間交渉が行き詰まると韓国との議員間のパイプを使って独自に解決策を探り、軟着陸に導く緩衝材の役割を果たしてきた。

なかでも日韓議連は首相経験者ら大物政治家が会長ポストに就いてきた議連の名門で政府間の窮地を幾度となく救ってきた。しかし、自民党内の世代交代や政府機構改革などによって党の存在感が低下し、日韓議連もすっかり影響力を失った。

こうしたなか、今後の日韓関係を占う意味で日本でも注目される人事があった。

23年3月、日韓議連の新たな会長に前首相の菅義偉が就任した。首相経験者の会長就任は13年ぶりだ。安倍首相時代に内閣の要である官房長官を長く務め、韓国との外交の酸いも甘いも知る菅は徹底したリアリストでも知られている。

菅会長について韓国政府高官は筆者に「(22年11月の)麻生太郎元首相が訪韓し尹大統領と会談したのに続く日韓関係への良いシグナルだ」と評価してみせた。

極右政治家の象徴として韓国が忌み嫌った「アベ」が亡くなったことに、韓国人はなぜ困惑しているのか_4
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安倍を「極右政治家」と蛇蝎のごとく嫌った韓国が「アベ喪失」に複雑な波紋

「日韓は経済的にも、安全保障上も極めて大事な隣国だ。両国の友好発展に取り組む」と決意を語った菅は日韓外交のキーパーソンになり得る。

日韓外交で岸田が思い切った決断に踏みきり、党内や支持層を抑えなければならないときにこそ菅の真価が試される。

それでも党内を束ねるうえで安倍の代わりになるのは難しいだろう。

韓国は安倍を「極右政治家」と蛇蝎のごとく嫌った。一方で自民党最大派閥を率い、日本の保守層をまとめられる安倍の抜きんでた実力を認め、対日外交の羅針盤にしていた。大統領選に当選した尹が就任前に日本に派遣した政策協議団が安倍との面会を強く希望したのもそのためだ。その際は安倍も面会に応じた。

安倍に限らず、日本の政治家による韓国への厳しい言葉遣いに「もう少しうまい言い方があるのではないか」と思ったことは1度や2度ではない。

一方で、安倍があれだけ強く押し込んだからこそ韓国が日本の本気度や事の重大性に初めて気がつき、その結果として尹政権による様々な対日政策の転換につながったとみることもできる。

「アベ」の喪失は韓国にも複雑な波紋を広げている。「日本で実際に外交・安保の議論をリードしているのは誰か」「誰と話せば岸田首相に届くのか」――。安倍の死後、韓国のあちこちでこうした戸惑いの声が漏れている。