制度の見直しの先にあるもの
これらの論点は、実際には「制度」、すなわち安全保障政策の決定過程や安全保障政策を実行する上での手段における改革を求めるものであって、具体的に日本としてどのような安全保障政策を追求すべきかについての議論ではなかった。それらが実現したあと、どのような戦略を進めていくかについての議論は欠落していたのが実情であった。
そして、現在ではそれらの改革のほとんどは実現した。
集団的自衛権については平和安全保障法制に伴う集団的自衛権の限定行使という形で、日本版NSCについては国家安全保障局設立という形で、武器輸出政策については防衛装備移転3原則という形で、打撃力については2022年12月の戦略3文書に伴う決定という形で、非核3原則の3つめの「持ち込ませず」については、2010年の岡田克也外相の「核搭載米艦船の一時寄港を認めないと、日本の安全が守れないならば、その時の政権が命運を懸けてぎりぎりの決断をし、国民に説明すべきだ」という答弁という形によって、である。
「制度を見直すべき」という主張はそれほど難しくない。制度はあくまで、政策論の「入口」に過ぎない。いま必要なのは、日本の安全保障と地域の安定を達成する上で必要な政策課題そのものを深く議論し、使用可能な政策手段を組み合わせていくことである。そのため、現在では、安全保障を議論する上で必要な知識と知見のレベルが、10年前に比べてはるかに高くなっている。