いま日本人が考えるべきこと
日本を取り巻く安全保障環境は悪化の一途をたどっている。
それと反比例する形で、抑止力としての防衛力(軍事力)の重要性が高まり続けている。日本は民主主義国家であり、国民が政策決定に関与する政体である。防衛力(軍事力)の重要性が高まっているということは、一部の専門家や官僚だけでなく、1人ひとりの国民にとっても、それを知り、考える重要性が増してきているということでもある。
そうした問題意識から、拙著『日本で軍事を語るということ -軍事分析入門』(中央公論新社)では、これまで、国際政治における軍事力の役割、国家にとってのステートクラフトとしての軍事力の意味、実際に軍事力が行使される「戦い」の局面ではどのようにそれが使われるのか、そして戦略を分析する方法と現在の日本の方向性について論じてきた。この章の最後に、いま日本人は、具体的に、日本の安全保障や防衛(軍事)について何を考えていかなければならないのかに、触れておこうと思う。
この点についても、日本はこの10年で大きく変わってきている。10年前、つまり平和安全保障法制が制定されるよりも前は、実際の政策論はほとんどなく、日本の安全保障政策に関する「制度」のみが議論されていたのである。
筆者は当時「5点セット」と呼んでいたが、この頃は、5つのことさえ言えていれば、メディアなどからは安全保障の「専門家」と見なされた。その5つとは、
「日本は集団的自衛権を行使すべきだ」
「日本版NSC(安全保障会議)を設立すべきだ」
「日本は武器輸出政策を緩和すべきだ」
「日本は打撃力(現在では反撃能力と呼称する)を持つべきだ」
「日本は非核3原則の3つめ(持ち込ませず)を変えるべきだ」
といった主張である。