絶対に間に合わない「10分間」
では、実際どのようなプロセスを経て、学生たちの意識は変化していくのでしょうか。たとえば、防大ではしばしばパレード行進のための訓練がおこなわれます。こうした訓練や校友会活動は訓練部(自衛官を中心とした組織)が取り仕切っています。
それ自体は結構ですが、講義のはじめに学生が、「パレードの訓練があるので早めに授業を終わらせてくれませんか」とお願いをしてくるのです。
そして、こちらが「なぜ早めに終わらしてほしいのか」と聞くと、「16時35分に集合なので間に合わないのです」と答えます【2】。こうしたやりとりは、これまでに1度や2度ではありません。
防大の7・8時限目の講義は「16時25分」までです。学生たちは講義が終わった後、いったん学生舎に戻り、訓練用の服装に着替えてグラウンドに向かわねばなりません。絶対に「10分間」では間に合いません。
そうであるなら、訓練部は訓練の集合時刻を「16時45分」に設定すればいいはずですが、彼らは絶対にしません。その結果、学生たちへの懲罰を避けるために、折れるのは私たち教官となります。
こうして、パレード訓練の期間中、本来16時25分までの授業は、16時10分までになったり、16時までになったりします。これは私だけでなく、7・8限を受け持つ、すべての教官が強いられる不条理です【3】。それ以外にも、校友会活動を理由に講義を休ませる(その際の書類も訓練部が差配します)のも、自由自在。
日々、そのような「パワーバランス」を見せつけられているうちに、学生たちは学ぶことを軽んじるよう、人格形成されていきます。