久保学校長の学校改革に期待

最後の砦となり得るのは、民間から政治任用される学校長でしょう。2023年現在の学校長である久保文明氏は、米国政治の研究者(元東大教授)です。そして前任の國分良成氏は中国政治の研究者(元慶大教授)でした。

一般に「研究者の世界」は、研究そのものにおいては「平等」です。助教、講師、准教授、教授といった職位はありますが、研究において「講師の身分では、教授に議論を持ち掛けてはいけない」というような、階級社会的な制約はありません。

【防衛大告発を読んだ現役教官による証言】「防衛大の新入生は入学して少し経つと、服に星がついた人間にしか挨拶しなくなる」学生を変質させる学内の「圧迫教育」とカリキュラム間の「悪意の10分間」_3

ですから政治任用された学校長が、自らの「研究者」としての矜持を失わずに、私たち現場の教官の話に、わずかでも耳を傾けてくだされば、ここまで状況が悪化することはなかったはずなのです。

執行部の人々――具体的には、自衛官の副校長や事務官の副校長を中心に――は、防大にやってきた学校長(研究者)を徹底的に囲い込み、祭り上げ、軍隊における将軍のような「在り方」に誘導します。そして、現場の教官と分断し、学校長を幻想の中に住まわせるのです。
他の教官と触れ合う(可能性のある)場では、常に影のように副校長が寄り添い、会話を監視していました。そして、この大学校にいるうちに、学校長はこうした「異様」を異様と感じないようになってしまうのです。

分断は他にもあります。一般大学で開かれる「教授会」には准教授も参加できますが、これまで防大は認めてきませんでした。しかし、定年まで両手で数えられる教授たちと、これから4半世紀以上在籍する可能性のある准教授以下の教官たちでは、本校の教育に対する危機感がまるで違います。

けれども、彼らは教授会に参加が許されませんので、学校長に危機感を訴えることすらできないのです。現在、防大改革を進めている久保学校長であれば、もしかすると、この旧弊も打ち破れるかもしれないと期待を寄せる若手教官は少なくありません。

後編へつづく

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【1】編集部は当該の教官に面会し、身分確認をおこなった。

【2】過度の校友会活動によって、勉学に支障が出ていることは、等松論考でも指摘されている。

【3】編集部の取材に対して、防衛大学校は下記のように回答した。


(編集部の防衛大学校への質問)
現在も貴校に勤務する文官教官を取材したところ、次のような証言を得ました。年間を通じてしばしば実施されるパレード訓練等によって、7、8限の講義を受け持つ教官たちは、規定の「16時25分」まで講義をおこなうことができず、早いときには「16時」前後で切り上げざるを得ない、という主旨です。

その理由について、(切り上げる側の)文官教官は、訓練部や指導官が学生たちに命ずる「訓練の開始時刻や集合時刻」が早すぎるためである、と指摘しました。取材に応じた文官教官は、訓練部によって、集合時刻が16時35分と設定されると、学生たちを間に合わせるためには、「16時25分」より早く講義を終えなければならない、と証言しました。(そうでないと、間に合わなかった学生たちが罰を受けることになる)。そこで、お尋ねします。

(事実関係の確認)貴校では、すべての学科において、年間を通じて、7、8限の講義は必ず規定の「16時25分まで」おこなわれているのでしょうか。

(上記質問に対する防大の回答)
① 防衛大学校では、授業時限を45分単位とし、御指摘の7、8時限については、14時55分から16時25分までとしております。
② これは円滑な授業運営を行うための基準であり、講義の進捗の状況に応じた教官の講義運営の判断を妨げるものではなく、この点については他の大学と同様と認識しています。
③ そのため、教官の判断により、7、8時限が16時25分よりも前に終了することもあれば、16時25分を越えて行われることもあると認識しております。