余命わずか数年の波平と
まだまだ人生これからの筆者だから違って当然

などということをつらつら考えながら、長谷川町子が長年にわたって居住し、今や“サザエさんの街”として知られる東京・世田谷区の桜新町に向かった。
54歳記念に、桜新町の通りに建つ波平の銅像と写真を撮るためだ。
そして銅像と肩を組んでみたら、やっぱりまた思ってしまった。
この人、どう考えても同級生ではないぞと。
どっからどう見ても、仕上がった爺さんではないかと。

同い年の2人
同い年の2人

そりゃあ僕も50代だから人並みに歳をとり、体のあちこちに衰えを感じる。
白髪は増えたし、肌にハリがなくなって目尻に皺はできるし、腰だの肩だの背中だの体のあちこちがしょっちゅう痛いし、腹は出るし高血圧だし……。
でも、断じて波平のような、“見るからに爺さん”ではないと思うのだ。

なんで波平はこんなに老人然としているのかと思い、昭和20年代の統計データを調べてみたら、驚くべき事実を目の当たりにした。
1949年(昭和24年)時点での日本人男性の平均寿命は、なんと『56.20歳』なのだ(内閣府「平成17年版少子化社会白書」)。
つまり、『サザエさん』が「夕刊フクニチ」に連載されていた当初の段階では、平均寿命で命尽きると仮定すると、波平の余命はあと2年ほど。

そりゃあ立派な老人だ。
何しろ人生の最終コーナーを回っているのだから。

ちなみに定年制度がスタートした昭和初期から定年年齢は55歳に定められ、1980〜1990年代に60歳に引き上げられるまで、長く55歳=社会の一線から退く歳だった。
初期設定の波平も、あと1年ほど会社勤めをしたらめでたく隠居生活が始められる年齢。
だが、その後の彼に残された時間はあまりに短い。

波平よ……。
なんてことだ。

今の僕がもし、あと1年で仕事を辞めて隠居し、数年後には天国へ行けと言われたら、「いやいやいやいや、ちょっと待てちょっと待て」と大慌てするだろう。
僕にはまだやり残したこともやらねばならないこともたくさんある。
死神様、どうか頼むもう少しだけ! と平身低頭でお願いするだろう。

でも、大丈夫。
今の男性の平均寿命は81.47歳だから(厚生労働省「簡易生命表(令和3年)」)、これまた平均寿命までは生きられると仮定したらだけど、僕にはまだ30年近くの年月が残されているのだ。
やれることはたくさんありそうだ。
よかったよかった。

翻り、マイメンナミヘーよ。
爺さんとかジジイとか言ってすまなかった。
昭和20年代の54歳であるあなたが、すっかり仕上がった老人然としているのは当然なのだ。
残りわずかな人生を、どうか有意義に過ごしてください。
あなたから見たら、僕なんぞ尻の青い若造でしょうが、あとはこちらに任せてどうか安らかに(まだ死んでないって)。

蛇足だが、ケンタッキーフライドチキンの店頭に立つ、カーネル・サンダースの等身大人形は、氏が60歳のときの姿なのだそうだ(諸説あり)。
還暦記念のときは、サンダースおじさんと肩を組んで写真を撮ろうと今から決めている。

あんた、まだ60歳だったのね
あんた、まだ60歳だったのね

写真・文/佐藤誠二朗