ビートのある音楽で踊ってほしい

――そこも戦略だったんですね。ところで『ワンダンス』というと、やはりダンスシーンの斬新な作画だと思います。どうやって描いていらっしゃるんですか?

【漫画あり】「これを人生最後の作品にしよう」。ダンサー志望から漫画家に転身した漫画家が描く『ワンダンス』が唯一無二のマンガだと確信できた1コマとは…。_6

珈琲 最近は自分でポーズをとって、写真を撮って、それを下書きにしています。最初の頃に発見したなと思うのは、振りぬく動きがあったとして、ムーブ後の決めポーズより予備動作を描いた方がカッコいいということ。後者を見ただけで、次にこういう動きがくると頭の中で補完されるじゃないですか。ブレイクダンスはキメのシルエットがカッコいいので、実は一番描きやすいですね。難しいのはロック(ストリートダンスの一種で立ちダンス)。動きの繋がりを見せなきゃいけないので。

編集A 例えばJAZZを題材にしたマンガ『BLUE GIANT』(石塚真一)もそうですけど、静止画なのに本当に音が聞こえてくるように感じるじゃないですか。『ワンダンス』も画面から音が聞こえてくるような、会場の一体感や熱気も伝わってきます。

珈琲 『BLUE GIANT』は僕も読みました。決めゴマが真っ黒なバックに楽器を持っている絵なので、擬音がない方が読者に想像してもらえていいなと思って、ダンスバトルでは一切、擬音を描かないようにしています。

――ダンスシーンのエフェクトには、光の玉やバイタルサインみたいなヤツが描かれていますよね。

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珈琲 あれはビートです。ストリートダンスは絶対にビートのある音楽を使うので、社交ダンスやバレエとは違うんですよということを強調するために描いています。僕はとにかくビートのある音楽で踊ってほしいので。

――だから、作中にミュージカリティ(音を捉え、音楽を楽しむことができる能力)という言葉が頻出するんですね。

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珈琲 そこも意識的にやっています。ダンスってどうしてもフィジカルな面に目がいきがちじゃないですか。それもあって、体の使い方や体力面のキツさを描いたダンスマンガが多いと思うんですけど、前提として音を聞かなければダンスではない。実は、僕が挫折した部分もそこなんです。即興で踊りながら、音が聞けなかった。

――そうなんですか? 

珈琲 今は聞けるんですけど、当時は「おれ、こんなエグいムーブできるんだぜ」っていうのを見せたくて、フィジカルに重点を置いていたんです。ところがある時、先輩から、「お前がやってるのはダンスじゃない」と言われて。愛あってのアドバイスなんですけどね。それから10年ぐらいたって、「音を聞くってこういう感覚か」というのを理解できて、他の作品と差別化するために、あえてこのマンガでは、「音楽こそが全てだ」という描き方をしています。

――コミックス8巻カバー袖の著者コメントに、「当時あれだけ練習しててもわからなかったことが、描いてみたらあっさり気付くことがある」とありました。

珈琲 そうなんです。やはり、描くために(ダンスを)よく見るようになって、気付くことが結構あって。自分も少しだけダンスが上手くなりました(笑)。

#2へつづく