ダンスから生じる神秘的な部分を描く
――『ワンダンス』はアメリカや韓国、フランスやスペインなどで広く翻訳されています。今年5月には北米でマンガ賞も獲られましたし、来年開催のパリ五輪で、さらに世界中に広がりそうですよね。
珈琲 ありがとうございます。ただ、作中では全く(パリ五輪に)触れていないんです。
――描かれる予定はあるんですか?
珈琲 ないかなぁ。オリンピックがあるからやっていると思われたくないですし、なるべく作中の大会なんかは架空のものにしようと思っているんです。かっこいいダンスを見たかったら、マンガを読むより実物を見たほうが早いじゃないですか。
(集英社担当)編集A とはいえ、『ワンダンス』は実物を超えている時があります。
珈琲 確かにエフェクトと感情はマンガでしか表現できないですよね。実は、ダンスマンガを描くにあたって、僕が大好きなダンサーのYUSUKEさんとダンスバトルをしたんです。スタジオに2人きりで、時間無制限で、ただ交互に踊りあう。その時、何か神秘的なものを感じたんです。あの時の視界の見え方とかを、恩ちゃんとカボくんのダンスバトルで描きました。
――ダンスバトルのシーンでは、何か目に見えないものが空間を支配しているのを感じます。ちなみに、踊っているときは、何を考えているんですか?
珈琲 こっちはそんなに上手くないから無理やり踊るだけなんですが、相手はそのステップをカッコよく変換して返してくれる人なので、とにかく「楽しい」「カッコイイ」と思っていました。
編集A バトルで無限に踊りあう時、神秘的な感じになるの分かります。根源的と言うか、原始の時代を考えても、踊りって言葉より先にあったものじゃないですか。
珈琲 あんなに楽しいのに、どうしてあんなに辛くなるんですかね……。
編集A 自分と向き合うからですかね……。確かに辛いことのほうが多かったです。
珈琲 僕も10代でダンスをやっていたころは、楽しいって瞬間は少なかったです。けれど、大人になってからYUSUKEさんとバトルをやって楽しかったのは、これから上手くなって、バトルに出てとかの欲やプレッシャーのない、ただの遊びだったからだと思って。そういうメンタルでずっといられたら最強ですよね。