「異性からの愛」がインフラだと表現

池田 そうですね。ただ、彼のツイートの全体を見渡してみると、女性蔑視やミソジニーではない何かが浮かび上がってきます。ある一部分だけを見るとぎょっとするところがありますが。
 
五野井 いわゆる弱者男性論のなかでは、弱者男性に女をあてがうべきだという本当にひどい議論もありますが、そこには当然ながら山上被告は与しません。
 
池田 「おや」と思ったのは、女はインフラだという部分です。当然ながらフェミニストがそれを否定すると、人が人を支え合ってナンボでしょ、みたいなことを山上被告は言っています。つまり女を人と言い換えてから、人は社会のインフラであると言っています。ぎょっとするような議論の間から、彼の善良な地金が出ているように思いました。

山上徹也被告のツイートにはなぜ「女」が頻出するのか? 新自由主義とカルトに追い詰められた“ジョーカー”の全1364ツイートを読み解く_5
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五野井 インセルが女性をインフラであるかのように思い込んでいるよねという言い方に対して、山上被告は開き直るようなかたちで、いや、「異性からの愛」がインフラだという表現をしています。ここが誤読しがちな厄介なところで、「女をあてがえ」論の人だったら「女がインフラ」とはっきり書きますが、山上被告はそうは書いていません。異性からの愛、人とのふれあいはどんな人であれ必要でしょう、と。彼は性愛ではなく、愛を求めています。ここは見逃してはいけないところだと思います。
 
池田 彼もなかなかうまく言えていないところですけどね。最後に念のために言っておくと、私たちは山上被告の犯行を一度も擁護したことはありません。彼がどういう人でなぜああいうことをしたのかを、できる限り突きつめたいんです。少なくとも二人の人生──一人は命を失い、一人は人生の真昼時に裁判や収監といった非常な現実に向き合うことになった──の重みを私たちが受け止めるために、できうる限り知りたいのです。

#1〈安倍元首相 銃撃1年〉山上徹也と日本の「失われた30年」。彼はなぜ、“弱者切り捨て社会”においてあそこまで自力にこだわったのか?

山上徹也と日本の「失われた30年」
著者:五野井 郁夫  池田 香代子
山上徹也被告のツイートにはなぜ「女」が頻出するのか? 新自由主義とカルトに追い詰められた“ジョーカー”の全1364ツイートを読み解く_6
2023年3月24日発売
1,760円(税込)
四六判/176ページ
ISBN:978-4-7976-7427-9
山上徹也のものとされる全ツイート1364件を精査。
山上徹也は、2019年10月13日から「silent hill 333」のアカウント名(2022年7月19日に凍結)で、ツイッターへの投稿を始めたといわれている。そのツイートから見えてくるのは、家族そして人生を破壊された「宗教2世の逆襲」という表層的な理解にとどまらず、ロスジェネと呼ばれる世代に共通する絶望感、悲壮感であった。気鋭の政治学者と社会運動家が、山上の悲痛な叫びから、この30年の現代日本の重い問題をあぶり出す。
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