演奏というものはひとつの“ラリー”

『AINOU』以降、中村が演奏するそのステージも大きくなってきている。「FUJI ROCK FESTIVAL」や「SWEET LOVE SHOWER」といった大型フェスへの参加に加え、ワンマンライブも、ライブハウスからホールクラスがチョイスされるようになった。そこでの意識的な変化はあるのだろうか。

中村 ワンマンライブの場合は会場を自分の身体だと見立てて、もし自分の身体が大きくなったとき、呼吸するときはゆっくり落ち着いて息を吸わないと身体全体に酸素が届かない――そんなイメージで数年前より落ち着いて構えるようになりました。
フェスに関してはその日の高揚感と一緒に演奏しているので、特に深く意識したことはありません!

今年2月に行われたワンマンライブ「うたのげんざいち 2022 in 国際フォーラムホールA」では、ピアノをメインとしたソロでの弾き語りライブを敢行。世界的ジャズ・ピアニストの上原ひろみがシークレットゲストとして登場し、会場を大いに驚かせたこの公演でも、やはり印象に残ったのは、彼女の音と戯れるように演奏する姿であった。ピアノソロという、演奏としては限りなくプリミティブな形態の中で生まれた肥沃なサウンドに、彼女のミュージシャンとしての強さと自由さが引き立っていた。そうしたフリーキーな演奏スタイルを、中村佳穂は“ラリー”という言葉から説明する。

中村 演奏というものはひとつの“循環”“呼応”“ラリー”のように捉えているのですが、生ピアノという楽器(での演奏)は、観客に向けてというよりはひとりで自分と向き合い呼応(対話)させているのに観客が耳を傾ける楽器のように感じています。
演奏相手がいると思わぬ場所に届くピンポンのリレーのリズムに乗り続けるような楽しさ。ソロのピアノ弾き語りの場合は気兼ねなくラリーを打てるスカッシュのような清々しい感覚があります。
個人で演奏することによって得た気づきや、強さがあるベースの上で、共演者とラリーを行えるバランス感を常に持ち続けたいなと思っています。

その声や振る舞いのみならず、衣装やステージデザインもコンセプチュアルで、毎回驚きのあるものになっている
その声や振る舞いのみならず、衣装やステージデザインもコンセプチュアルで、毎回驚きのあるものになっている

帰る場所をたくさん作りたい

2022年秋には、いくつかのフェスやイベントを経て、ホールクラスでのレコ発ワンマンツアー「TOUR ✌ NIA・near ✌」を開催する。異ジャンルへの参加など新たなチャレンジを行い、自身の可能性を広げた2021年から『NIA』発売を経て魅せる、彼女の最新形とは――。それは、自分の意思とは関係なく変わりゆく時代や世間に対し、無闇に抵抗するでも無条件に受け入れるのではなく、成長のために選び取る姿勢が窺えるものとなりそうだ。

中村 歳を重ねるごとに「環境」によって自分の価値観がアップグレードされている気がしているので、なるべく国内外問わずいろんな環境、帰る場所をたくさん作りたいなと思っています。あと年齢を重ねると“何かしらの初心者”ということが減るので、新しいことにも常に少しずつ挑戦したいです。
その上でそれぞれの場所で自分が何を作るのかを楽しみにしながら生きたいなと思います!

2022年、変化や挑戦をまだまだ貪欲に楽しもうとする中村佳穂。その快進撃は、まだまだ止まりそうにない。

『竜そば』への参加、紅白出場――チャレンジを止めない音楽家・中村佳穂が語る“うた”の未来(後編)_4

(了)
(前編はこちら)

<ツアー紹介>
[中村佳穂 TOUR ✌ NIA・near ✌]
■2022/09/14(水) @東京・J:COMホール八王子 開場18:00/開演19:00
■2022/09/19(月・祝) @福岡国際会議場(メインホール) 開場17:00/開演18:00
■2022/09/22(木) @岡山・倉敷市芸文館 開場18:00/開演19:00
■2022/09/27(火) @トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール 開場18:00/開演19:00
■2022/09/29(木) @札幌市教育文化会館 開場18:00/開演19:00
■2022/10/05(水) @愛知県芸術劇場 大ホール 開場18:00/開演19:00
■2022/10/07(金) @東京・昭和女子大学人見記念講堂 開場18:00/開演19:00
■2022/10/27(木) @大阪・フェスティバルホール 開場18:00/開演19:00

一般発売 : 2022/05/28(土)10:00~

取材・文/森樹