バイデン大統領にとっての「部屋の中の象」

さて、この日のバイデン大統領のジョークの出来はどんなものだったろう。わたしが考える、アメリカンジョークでウケる鉄則の第1条は「だれもが思っているのに、口にできないことをネタにする」というものだ。

だれもがひっかかっているのにあえて避けている問題を、英語では「Elephant in the room」(部屋に像がいても気がつかないふりをする)と言う。そこで「kill the elephant in the room」、つまり口に出せない懸案を話題にのせてギャグにすれば、みんな安堵して喝采を送るというわけだ。バイデン大統領に関して言うなら、「部屋の中の象」はやはり、80歳という自身の高齢問題だろう。

あなたはどこまで笑える? バイデン大統領の「ジョークの実力」とすべらないアメリカンジョークの「鉄則」_2
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本人もそのことを意識していたようで、晩餐会では年齢がらみのジョークが多かった。そのいくつかを紹介しよう。

「わたしは言論の自由(憲法修正第1条)を強く信じる。わたしの友人、ジェイムズ・マディソンが書いた好みで言っているわけじゃない」

憲法修正条項を書いたマディソンは19世紀初頭の第4代大統領だ。つまり、自分はそれほど長く人間をやっているというギャグだ。自身の高齢問題がらみでは、さらにこんな追加ジョークも。

「わたしがルパート・マードック嫌いだと思われているようだが、とんでもない。彼に比べたら、わたしは(29歳の)ハリー・スタイルズみたいだろ?」

92歳で4度の結婚歴があり、トランプ推しのメディア王として知られるマードックFOXニュース会長を揶揄する一方で、自らをイギリスの超人気シンガーになぞらえたものだが、はたしてこの比較でどこまで聴衆の笑いを誘えたのだろうか?

アメリカンジョークでウケる鉄則の第2条は、時事ネタを巧みに活用することだ。晩餐会の主な聴衆がメディア関係者であることを考えれば、この2条は絶対に欠かせない。そこでバイデン大統領が選んだのがCNNの人気番組司会者、ドン・レモン氏ネタだった。

このレモン氏が2024年の米大統領選に出馬表明したニッキー・ヘイリー元米国連大使(51)を「50代ですでに女ざかりを過ぎている」と揶揄し、CNNを解雇されたのは今年4月24日のこと。この時事ニュースを受けて、バイデン大統領はこんなジョークをぶち上げたのだ。

「人は老人と言うが、ワタシ的には円熟と呼んでくれ。人は老いぼれと言うが、ワタシ的には賢人と呼んでくれ。人はオワコンと言うが、ドン・レモン氏に言わせれば、男盛りと呼んでくれ」

何とも自虐的かつ円熟味(?)のあるジョークではある。