それは暴力の象徴、
だけど物語に不可欠の小物だった
蛇足だけならまだしも、逆になぜそれを削る?って箇所もあるのでややこしいわけですよ。 「政府の手先」に囚われた宇宙人を奪回するには、か弱く力及ばない主人公やその兄貴だけでは不可能で、そんな危機的状況において、それまで何かにつけ主人公をバカにしてきた兄貴の友達が本領を発揮する場面があるのです。普通に観ていたら流してしまうトコですが、一歩間違えば陰湿なイジメの構図に落とし込まれるのが当たり前のこのご時世、“決して理解し合えないと思っていた相手も、実はいい奴かもしれない”というニュートラルな立脚点は、まさに新作『フェイブルマン』(2022)にも登場する、スピルバーグ作品を語る上では欠かせないモチーフ。ヤな奴だと思ってたクソ野郎が味方になるカタルシスです。
その結果、この兄貴の友達どもは、国家を後ろ盾にした機関の連中を鮮やかなモトクロスバイクの華麗なるダートワークで翻弄するのですが、国家権力であってもユナイテッドステイツです。そんな、タイヤが太くて硬い自転車を操れるクソガキに翻弄されるほどマヌケではありません。先回りして封鎖線をひいてクソガキどもの一網打尽を企みます。
最終ストレートに追い込まれたことも知らずに快走を続ける、宇宙人を連れた主人公とその周囲の護衛船団。顔バレしたら残りの人生アウトというリスクもなんのその、友達の弟の「助けたい」という気持ちをマッハで汲み取った上で大人たちを出し抜いてやるぜ!という心意気で突っ走ります。ジョン・ウィリアムズのフイルム・スコアリングとともに!
その楽しい思春期の暴走も警察機関による封鎖線で終わりを迎えます。 ポイント・オブ・ノーリターンもなんのそのスピードを緩めることなく突っ込んでいくKUWAHARAのBMX軍団。しかしその先に自由はあるのか? まさか子供相手に『明日に向って撃て!』(1967)みたいな展開するつもりじゃないだろうな? 行手を阻む警官が持ったショットガンを目にする主人公———もうダメか。異星の親友を奪われるのか。そこにはアメリカにおける銃という暴力装置による理不尽な服従の歴史の連なりが横たわり、希望や夢を現実が打ち砕かれるのが必定。
しかし、地球外の遠い星から来た友人は解決する手段を持っていて、そのことを多くの観客はさかのぼること1時間ほど前に体験しています。緊張のピークに差し込む一筋の光明。そして希望や夢が現実を凌駕し打ち砕く大逆転。大成功。もちろん純粋な少年と宇宙人の友情も欠かせない要素ではありますが、このクライマックスの、普段の生活圏内で展開される冒険活劇に最高に興奮したのです。登下校で見慣れた退屈な住宅地でもアクション映画のクライマックスの舞台足り得るのですから。
そのクライマックスの「もうダメだ!」という緊張と絶望のピークの象徴が警官の持つ銃だったのに、そのカットを中心とした、封鎖して立ちはだかる警官たちの手からショットガンが、最新デジタル画像処理技術によって跡形もなく消去されたのです。20周年記念の特別版では。