金太郎飴みたいに思われるのはおもしろくない

81歳で映画主演の藤竜也。「今でも役に入る前は怯えるし、怖がりながら準備をする。“1年生”感覚はずっと抜けないです」ジョン・ウェインに影響を受けた、仕事に対する好奇心の行方_3

――長く俳優の仕事を続けていらっしゃいますが、キャリアを積むと、自分ができることや得意なことをなぞってしまいがちです。経験したことがないことやおもしろいと思うことを追及する姿勢は、いつ頃から培われたのでしょうか?

ジョン・ウェインという俳優がいますよね。僕からすると、彼は圧倒的なアメリカを代表するスターです。「何をやってもジョン・ウェインだ」と、僕は思っていたんです。だからこそいいんだ、とね。

ところが、あるインタビューで、「私ほど、ひとつひとつの役をじっくりと考えて演じている俳優はいない」と語っていて、僕はビックリしたんです。どの作品でも「いつものジョン・ウェインだ」と安心して見ていたので。

作品ごとに役をとことん工夫して演じていたと知ったとき、だからあそこまで長く続けられたんだと思いました。

それからですね。慣れで同じような役を演じるのは嫌だと考えるようになったのは。金太郎飴みたいに、どこを切っても「あの俳優だ」と思われるのはおもしろくないですよね。

――出演作を選ぶ際にも、新しいことを意識していらっしゃるのでしょうか?

先ほど『プロハンター』をご覧になったとおっしゃっていただきましたが、当時は1作品につき26話、今の2クール分が当たり前だったんです。ある程度ヒットすると「次も同じような感じで行きましょう」という話になり、いくつかシリーズの話が来ましたが、僕はやらなかったんです。どんなに頼まれても、違うものをやりたいと思ったんですね。

81歳で映画主演の藤竜也。「今でも役に入る前は怯えるし、怖がりながら準備をする。“1年生”感覚はずっと抜けないです」ジョン・ウェインに影響を受けた、仕事に対する好奇心の行方_4

――当時から、作品選びの考え方は一貫していらしたのですね。

そうやって飽きないように、チビチビやってきたから、81歳になっても続けられているんだと思います。

仕事をするとね、時間が急に長く感じるんです。この映画も2週間くらいで撮影しましたが、「終わりの日までたどり着けるのだろうか」と思ってしまうぐらいでした。「終わったら誰と会おうかな。どこに行こうかな」なんて思いながら、クランクアップを待ち焦がれていました。

『愛のコリーダ』のときの話ですが、撮影当時、大島渚監督と何人かの俳優で京都の小さい宿で合宿したんですね。共同の居間にスケジュール表があって、「〇月〇日、シーン〇〇」と書いてあるんですが、1日が終わると監督がそれをひとつずつ消していくんです。ところがあるとき、助監督か誰かがそれを消しちゃってね。大島さんが烈火のごとく怒って、「俺のたったひとつの楽しみを奪ったヤツは誰だ!」って(笑)。

「いつ終わるんだろう」と不安になるエンドレスのような撮影の日々を、ササッと何事もなくこなしていくよりも、1歩1歩、1日1日、1シーン1シーンを積み重ねていくほうがいい。「うまくいった、あと少しで終わる」という喜びを感じながらスタッフや共演者とセッションできるのが、この仕事の醍醐味なんじゃないかなと思います。

それでいいシーンが撮れたら、機嫌がよくなって、浮かれた気持ちになるときもありますよ。宿に帰って、ビールが1本増えたりね。