国や文化を超えて作品が扱われる、新しい時代の到来
先日、脚本と製作総指揮を務めたイ・サンジンに取材をしたところ、「もうすでにシーズン2の脚本を書き始めている」と語っていました。
「韓国人が韓国人の話を、韓国の文化背景を入れて好きに描いたこの作品を、アメリカで映像化することは3年前には考えられないことだった。こんなチャンスがこれほど早くやって来るとは想像もしてなかった。もちろん、これは突然湧き出た幸運ではありません。『クレイジー・リッチ!』(2018)、『ミナリ』(2020)など、アメリカ資本で製作されたアジア人の映画の成功があってこそ、『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』の製作が可能になったのです」(イ・サンジン)
「すごいテレビシリーズが出た」「見始めたらやめられない」「ハマってしまった」と仲間内で話題になったとき、誰もが「韓国系の」という修飾語をつけずに「絶対見るべき作品」として賞賛しました。そして見始めて初めて、多くのキャストが韓国系アメリカ人だと知ったのです。
誰が演じようと、ストーリーの感性や背景がアジア風だろうと、おもしろいものはおもしろい。国や文化を超えて作品が扱われる、新しい時代の到来がうれしくなりました。実際、登場するのが何系だろうと、アメリカに住むアメリカ人の話なのだから。
アジア系俳優たちの苦労は、今年アカデミー賞を受賞したミシェル・ヨーやキー・ホイ・クァンのスピーチの中で語られています。
「私のようなルックスをしている少年少女たちに言います。今、私に起こっていることは、みなさんも実現可能です。夢を捨てないで進んでください。それに“峠を越した女優”なんていう言葉に左右されちゃダメよ!」
60歳になったミッシェル・ヨーの言葉に、会場は拍手喝采でした。
一方のキー・ホイ・クァンは、「声がかからなかった20年間は辛かった。役者としてのキャリアは終わったと何回も思いました。妻から“必ずやりたい役のオファーが来る”と励まされてここまで来ました」と、オスカー像を握りしめて挨拶。その姿に涙した人は多いはず。
時代の変化と、それを反映するハリウッドの変化がやっと始まったという感じです。