複数の“好かれる”魅力がある作品が有利に
アカデミー作品賞に輝いた作品は、その年、芸術的にもっとも素晴らしかった作品に与えられるというイメージを持っている人が多いだろう。
作品賞を含め7部門をかっさらった『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)は、2022年度の映画界を象徴する作品になったことは間違いない。ただし、ノミネートされた10作品の中でダントツに傑作だったかというと……疑問が残る。
LA在住の映画ジャーナリスト・小西未来さんは、「多くの方が誤解されているかも」と前置きした上で、「アカデミー作品賞は、一番優れた作品に与えられるわけではありません」と語る。
「作品賞は1944年から長らく、ノミネート5本の中から映画芸術科学アカデミー会員が1本選出する投票方法でした。ところが2009年からは、ノミネートされた10本を1位〜10位まで順位づけする投票方法に変更。つまり、賛否が分かれる作品は受賞しづらくなったんです」(小西さん、以下同)
今回ノミネートされたのは、こちらの10本(すべて2022年製作)。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『西部戦線異常なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『イニシェリン島の精霊』
『エルヴィス』
『フェイブルマンズ』
『TAR/ター』
『トップガン マーヴェリック』
『逆転のトライアングル』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
「戦争映画が嫌いな人は『西部戦線異常なし』を低い順位にしたと思うし、『TAR/ター』のアートな雰囲気で眠ってしまった人は、上位に順位づけしなかった。“好きな人は好き”と分別される作品は受賞が難しくなりました。その結果、有利になったのは“嫌われない作品”です」
2021年度の作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』(2021)がいい例だ。
「『コーダ』が映画史に残る傑作かというと、そうではないと思います。それでも作品賞を獲ったのは、まず青春ものとしてすごくよくできていたこと。そして聾者のリアルを描いていたこと。さらに今の時代に必要なポジティブなメッセージも込められていました。つまり、好かれる複数の魅力がある。そういう作品は、自然と上位になることが多いんです」