意識が戻ったときには「目しか動かせなかった」
高尾洋之さんは、東京慈恵会医科大学附属病院の脳神経外科医だ。デジタル技術に対する造詣は以前から深く、2015年には同大学の先端医療情報技術研究部のリーダーに就任。医療におけるデジタル活用の研究・普及に邁進していた。
ある朝、高尾さんは突然足の痺れを感じ、救急車で病院に運ばれると、間もなく意識を失った。目が覚めると、喉には人工呼吸器のチューブがつながれており、手足はまったく動かない。声も出せず、かろうじて目を動かせるだけだった。あとから知ったことだが、意識を失ってから目が覚めるまで、実に4カ月が過ぎていた。
高尾さんが罹患したのは、ギラン・バレー症候群という病だ。ギラン・バレー症候群は、四肢麻痺や顔面神経麻痺、嚥下(飲み込み)障がいを引き起こす。患者の多くは時間と共に自然に回復するが、重篤な場合は、呼吸筋まで麻痺してしまい呼吸不全になって死亡した例もある。長期に渡って後遺症と向き合わなければならない。
高尾さんは、極めて重篤なケースだった。ようやく声が出せるようになるまで1年半を要した。4年半が過ぎた今は少しずつ体が動くようになってきたが、歩いたり指先を自由に動かしたりできるようになるのはまだ先のことだ。
そんな高尾さんの闘病・リハビリ生活は、周りの人の温かな応援と、さまざまなスマートデバイスによって支えられてきた。iPhoneやiPadをはじめとするスマートデバイスには、障がい者の使用をサポートする「アクセシビリティ」機能が搭載されているが、高尾さんは自らが障がいを抱えたことで、そうした機能のありがたみを初めて当事者目線で実感することになった。