人がフィクションを必要とするとき
土居 ぼくは『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』で『天気の子』について「勘違いの物語」という風に書いたんです。帆高と陽菜は自分たちが世界を変えてしまったと思っているけれど、それは単に彼らが都合よくそう解釈してるだけなんじゃないかと。
北村 なるほど。
土居 同時に「起業家の物語」でもあると書いていて、ちょうどイーロン・マスクの買収でTwitterが大変なことになってますけど、現在って一人の気まぐれや思いつきで世界を変えてしまうと思われてる。でもそれって、勘違いじゃないですか。
現実はもっと複雑で、事実イーロン・マスクだって一人でtwitterを改革できないから、わざわざ解雇した従業員におねがいして戻ってきてもらってる。しかも断られたりして(笑)
そもそも人間は、人智を超えたものを理解するためにフィクションをつくってきました。陰謀論やオカルトもそのヴァリエーションです。震災のような巨大な経験を受け止めようとしたとき、それが制御できるといった勘違いが求められるのではないか。
北村 すずめはイーロン・マスクだったってことだ(笑)
土居 要は人にはそういうフィクションが必要なんだ、ということだと思います。新海誠自身が小さい頃にいろんなアニメや本で救われるような気持ちになった、という体験を今度は下の世代に提示したいんだと。
やっぱり生きていくのって大変じゃないですか、子どももいろんな状況にあるわけで。そういうときに、なんとか生き延びていくために一つのフィクションを示すっていうのは、とても大事なことだと思います。
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