人がフィクションを必要とするとき

土居 ぼくは『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』で『天気の子』について「勘違いの物語」という風に書いたんです。帆高と陽菜は自分たちが世界を変えてしまったと思っているけれど、それは単に彼らが都合よくそう解釈してるだけなんじゃないかと。

北村 なるほど。

土居 同時に「起業家の物語」でもあると書いていて、ちょうどイーロン・マスクの買収でTwitterが大変なことになってますけど、現在って一人の気まぐれや思いつきで世界を変えてしまうと思われてる。でもそれって、勘違いじゃないですか。

現実はもっと複雑で、事実イーロン・マスクだって一人でtwitterを改革できないから、わざわざ解雇した従業員におねがいして戻ってきてもらってる。しかも断られたりして(笑)

そもそも人間は、人智を超えたものを理解するためにフィクションをつくってきました。陰謀論やオカルトもそのヴァリエーションです。震災のような巨大な経験を受け止めようとしたとき、それが制御できるといった勘違いが求められるのではないか。

北村 すずめはイーロン・マスクだったってことだ(笑)

土居 要は人にはそういうフィクションが必要なんだ、ということだと思います。新海誠自身が小さい頃にいろんなアニメや本で救われるような気持ちになった、という体験を今度は下の世代に提示したいんだと。

やっぱり生きていくのって大変じゃないですか、子どももいろんな状況にあるわけで。そういうときに、なんとか生き延びていくために一つのフィクションを示すっていうのは、とても大事なことだと思います。

3作品連続100億円突破! 映画『すずめの戸締まり』にみる新海誠の現在地と、ポスト・ジブリたり得る可能性 はこちら 

新海誠 国民的アニメ作家の誕生
土居 伸彰
「すずめはイーロン・マスクだった?」 新海誠『すずめの戸締まり』から考える、いま世界に必要なフィクションとは_1
2022年10月17日発売
990円(税込)
新書判/240ページ
ISBN:978-4-08-721237-2
【「個人作家」としての新海誠の特異性が明らかに】
『君の名は。』と『天気の子』が大ヒットを記録し、日本を代表するクリエイターになった新海誠。
2022年11月11日には最新作『すずめの戸締まり』が公開予定であり、大きなヒットが期待されている。
しかし新海は宮崎駿や庵野秀明とは異なり、大きなスタジオに所属したことがない異端児であった。
その彼がなぜ、「国民的作家」になり得たのか。
評論家であり海外アニメーション作品の紹介者として活躍する著者が、新海誠作品の魅力を世界のアニメーションの歴史や潮流と照らし合わせながら分析。
新海作品のみならず、あらゆるアニメーションの見方が変わる1冊。
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