震災をエンタメというジャンルで描くことの意味

土居 象徴的なシーンがやっぱり福島のシーンですよね。震災の当事者であるすずめとそうではない芹澤っていう2人がいて、同じ福島の双葉町の景色を見ている。同じ景色を見ていても、見てるものがちがうんですよね。見てるレイヤーがちがう。

北村 その双葉町の芹澤とのシーンが一番といっていいぐらい心に刺さりました。ぼくは2011年にちょうどアメリカに留学していて。家族は東京にいたんです。だから、もちろん震災の影響は受けてたんですけど、肌感覚としては全然わからなくて。

そういう意味でぼくは震災の当事者じゃないんですよ。当事者ではないんだけど、そのシーンで泣いてしまうんです。じゃあ、この涙っていったい何を意味してるんだろうって。

土居 今回の作品はまさに、「同じ作品を見てるけどそれぞれの人が見てるレイヤーがちがう」という構造をかなり意識的にやっている。

そういったレイヤーなんてまったく気にしないファミリー向けのムービーでもあるし、震災の表象でもあるし。海外から見たら日本的なものを入れたファンタジーでもある。相当クレバーに作り込まれている。

そういった戦略を取れる人はいま本当に新海誠しかいないので、その辺りがすごいなって思います。

北村 個人作家でありながら巨大な資本を得ていろいろ戦略を練られる、独特な立ち位置かもしれないですね。

「すずめはイーロン・マスクだった?」 新海誠『すずめの戸締まり』から考える、いま世界に必要なフィクションとは はこちら

新海誠 国民的アニメ作家の誕生
土居 伸彰
3作品連続100億円突破! 映画『すずめの戸締まり』にみる新海誠の現在地と、ポスト・ジブリたり得る可能性_1
2022年10月17日発売
990円(税込)
新書判/240ページ
ISBN:978-4-08-721237-2
【「個人作家」としての新海誠の特異性が明らかに】
『君の名は。』と『天気の子』が大ヒットを記録し、日本を代表するクリエイターになった新海誠。
2022年11月11日には最新作『すずめの戸締まり』が公開予定であり、大きなヒットが期待されている。
しかし新海は宮崎駿や庵野秀明とは異なり、大きなスタジオに所属したことがない異端児であった。
その彼がなぜ、「国民的作家」になり得たのか。
評論家であり海外アニメーション作品の紹介者として活躍する著者が、新海誠作品の魅力を世界のアニメーションの歴史や潮流と照らし合わせながら分析。
新海作品のみならず、あらゆるアニメーションの見方が変わる1冊。
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