新海誠はポスト・ジブリたり得るか?
土居 音楽でいえば『魔女の宅急便』で有名な『ルージュの伝言』なんかもそのまま出てきますし、明らかにスタジオジブリへの目配せが感じられますよね。
北村 新海誠作品を観ながらジブリをこんなに意識したのは初めてですね。『ほしのこえ』もジブリっぽいんですけど、今回のは質が全然違っていて、ゴダールが映画史を引用するみたいに、あえて日本のアニメーション史に目配せしながら引用してるようなところもある。
『魔女の宅急便』はもちろん、最初に観たときの衝撃と情報量の多さは『もののけ姫』に近いものを感じましたし、異世界との境界や扉というモチーフからは『千と千尋の神隠し』を思い出しました。過去と向き合って過去を思い出す、という結末も『千と千尋』に通ずるところがあるなと。
そういったジブリ的なものへの目配せも含め、今回の作品からは「国民的アニメ作家」という責任を引き受け、日本を代表して撮ろうという気概を感じました。
なにより東日本大震災に直球で向かっていくというスタンスはすごいなと。
2016年の『君の名は。』は大震災の5年後で、まだ触れるには早いという判断だったと思うんですが、今回賛否両論あるとはいえ、直接的に震災を扱ったその意気込みはすごいな、もしかしたら新海誠にしかできないかもな、と思います。
土居 震災の取り上げ方についても、新海誠自身が「エンターテイメントとしてやる、ということに意味がある」という話をしています。
『天気の子』って『君の名は。』のヒットで得た「自分の作品でこんなにいろんな人が反応するんだ」っていう実感を前提に、賛否両論が起こるような結末を描いてやろうという風につくられた作品なんです。
「こういう作品どうですか? どう思いますか?」ってお客さんが何を読み込むかを期待して作品を出していて、その方法論が突き詰められた上で、今回、様々な入り組んだ構造を意識的に作ったんじゃないかと思います。
北村 そんな感じはありますよね、あからさまですもんね。まさにその通り議論させられてるなって(笑)。