3つ目は24歳の息子を持つ母親からの相談。
「結婚した直後から、金銭面は嫁がすべて握って」いて「車の修理や帰省まで、親がお金を出す始末」だと憤っています。最近は息子が「脱力感で働く意欲を失い、早く離婚したいと思っている」ものの、「嫁にその話を持ち出すと、会社に押しかけるとか上司に告げるとか言われ、息子は脅されています」とのこと。

こんな調子で息子の悲惨な境遇を切々と訴える母親の相談に答えるのは、『ヒポクラテスたち』など数多くの名作を残して2022年11月に亡くなった映画監督の大森一樹さん。息子の妻が諸悪の根源のように言っているけど、本当にそうなのかと疑問を示します。

〈妻に給料からすべてお金を差し押さえられても手も足も出ず、(中略)帰宅が遅くなるとどやされるので家庭裁判所に行く時間も作れない、あげくに、図書館に逃げ込むしかない息子さんから、物事に対処する能力、生きていくための知恵といったものをまったく感じられないのは私だけではないと思います。どうして二十四歳になるまで、それらを育てたり、学んだりする機会がなかったのでしょうか。車の修理代、帰省の費用がないからといってお金を出してあげるようなあなたの姿勢が、その機会を奪ってきたのかもしれません。だとすれば、妻との関係を解消しても、息子さんの人生の解決にはならないでしょう〉
※初出:読売新聞の連載「人生案内」(1997年~2000年)。引用:大森一樹著『あなたの人生案内』(平凡社、2001年刊)

最後は「息子さんの健康面を心配される前に、親である自分との関係を見直されることの方が大切だと思います」と、相談者をビシッと叱責しています。
親の過剰な心配は、とくに結婚した子どもに対する念入りな心配は、ほぼ例外なく子どもの足を引っ張るだけ。とはいえ、「息子のため」だと迷惑な自分を正当化している相談者が、そうすんなり考えや行動をあらためるとは思えません。
息子にとっては、しっかりものの妻とちゃんと向き合って家庭を築いていくことが、母親から逃れて大人になる「最後のチャンス」に見えるんですけど……。

いずれの相談も、回答者は「それはお嫁さんが悪い」とは言っていません。悩みや怒りの原因は、自分の側にあると説いています。

嫁姑に限らず、仕事の人間関係にせよ、夫婦間や友達との関係にせよ、悩みや怒りの原因は「じつは自分にある」というケースは少なくないでしょう。もちろん相手に原因があるケースも多々ありますけど、人間関係の悩みに直面したときは、胸に手を当てて自分に原因がないかを考えてみたいところ。解決の糸口が見つかったり気持ちが楽になったりなど、事態が好転するきっかけをつかめるかもしれません。

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文/石原壮一郎 イラスト・マンガ/ザビエル山田