職人芸を感じる店
ところで、立ち食いそばの定義はなんだろうか。「立食いそばうどんの会」の主宰者・中村さんでも、これは難問らしい。
「よく訊ねられるんです。『立ち食い』といいつつも、イスが置いてある店は珍しくないし、券売機のないお店もある。麺やつゆにこだわりを見せて、差別化を図っている店も出てきました。まあ、パッと入ってパっと食べられて、500円前後という感じでいいんじゃないですかね」
そこで同会の女性会員である佐藤さんに、「新進気鋭系のお店」と「女性がひとりでも入りやすいお店」を推薦してもらった。
まずは「新進気鋭系」。
「小伝馬町にある『田そば』。そばの『もり』が500円、『天ぷらそば』が750円と立ち食いにしては高いのですが、それだけの価値はあります。とくにつゆは本枯節を使って変態的といえるほどこだわっていて、スモーキーで燻されている感じがあります。天ぷらの揚げの技術も高く、職人的な魅力を感じます」
次は「女性がひとりでも入れるお店」。
「築地にある『天花そば』。店内は立ち席のみなんですが、パーテーションが木製でひとりひとりのスペースが広く、カウンターの下に荷物を置くスペースがあるのが嬉しい。あと、清掃が行き届いていて、とても清潔です。
そばは自家製麺で、つなぎに山芋を使っていて、細めで白く、のどごしもいいです。私が好きなのは春菊天で、ここのはジュリアナ東京のお立ち台で振られていた扇のように広げた、通称『ジュリ扇』タイプではなく、春菊をざく切りにしてかき揚げにしたもの。ふわふわした食感で珍しいと思います」
仕事の合間にさっと食べるもよし、あちこち食べ比べするのもよし。気軽に楽しめるのが立ち食いそばのなによりの魅力だ。
写真・文/神田憲行