1960年代製アンティークラジオの
今風な楽しみ方とは
こうして僕のものとなったアンティークラジオを、改めてご紹介しましょう。
何本かの真空管を使う、サーモンピンクの筐体のラジオで、メーカーはパナソニック、ではなくてナショナル。
「GX-230」という型番で検索しても詳しいことはわからなかったが、どうやら1960年代初期に生産されていたものらしい。
2バンドのラジオではあるものの、その頃はまだFM放送が開始されていなかったので、受信できるのはAM放送と短波放送だ。
短波とは、非常に遠くまで届く短い波長を用いて音響を送信する放送。
インターネットが普及した今となってはもはやその価値が失われたが、短波ラジオは世界の様々な国の放送が聴取できるため、かつては人気があった。
今ではほぼ廃れかけている短波放送を聴けるのも、このラジオのいいところである。
そしてバンド切り替えのつまみを左端にひねると「PH」モードがオンになる。
「PH」とはPHONOGRAM、つまりレコードプレーヤーの略。
このラジオは、ライン入力によって外部プレーヤーの音を再生することができる機能が付いているのだ。
今回、僕がこのラジオを買った最大の決め手はここだった。
いくら見た目がかっこよくても、AMと短波放送だけしか聴けないのだったら、いずれは飽きてただの置き物となってしまうだろう。
でも外部ライン入力が可能なら、スマホやタブレットと接続し、自分の好きな音楽を再生できるではないか。
さっそくアダプターやBluetoothトランスミッターを使い、iPhoneやiPadに接続してみた。
はっきり言えば、いくら真空管を使っているとはいえ、1960年代の普及品であるラジオのスピーカーは貧弱で、高音部はまだいいが低音部の鳴り方が全然ダメだ。
むしろiPhoneやiPadに内蔵されているスピーカーで聴いた方が、今の基準で言うところの良い音であることは間違いない。当然、ステレオではなくモノラルだし。
でも、あえて大昔のラジオ品質に劣化させた音楽を聴いてみると、これはこれで実に趣深い。
特に、当時の再生装置のレベルに合わせて録音されたであろう音楽、例えば昔のアメリカのブルースやモータウンのR&B、それに日本の60年代歌謡曲なんかを聴くと、部屋ごとタイムスリップしたような気分になって、なかなか面白い。
もしかしたら何かを間違っており、非常にこじらせた楽しみ方であるのかもしれないが、買ってからこっち毎日毎日、わざわざこのラジオに接続して音楽を聴くようになった。
こんなにも素晴らしき出会いがあった世田谷のボロ市。
1月も行ってみたいと思っている。
お目付役の妻を同行しなければ、家のガラクタが増えてしまうだけかもしれないが。
写真・文/佐藤誠二朗