鈴鹿央士が役に宿らせる愛情表現の妙

鈴鹿央士のデビューは鮮烈だった。なんといっても、あの広瀬すずにスカウトされ、いきなり映画『蜜蜂と遠雷』(19年)の風間塵役を演じたのだから。あのときの鈴鹿の掴みどころのない、けれど輪郭だけはくっきりと濃い、独特の存在感は1度見たら忘れることができない。

そこから話題作への出演が続き、今年はさらに鈴鹿の知名度を押し上げた年だったといえるだろう。
『六本木クラス』(テレビ朝日)では長屋龍二を演じ、最初こそ主人公・宮部新(竹内涼真)とともに居酒屋・二代目みやべを盛り立てていくも、ヒロイン・麻宮葵(平手友梨奈)への想いを果たすため、みやべの宿敵であり自身の父が会長を務める長屋ホールディングスへ。前半までの温厚で時に頼りなさすら感じる姿からは想像もつかないくらい、長屋で働きだしてからの龍二は冷徹に牙をむく。だが、その根底にはしっかりと葵への愛情も垣間見えた。この“奥に潜ませた愛情の表現”こそ、鈴鹿の真骨頂だ。

そして、それが最大限に活きていたのがドラマ『silent』(フジテレビ)。鈴鹿演じる戸川湊斗は、とにかく全方位に優しい。ヒロイン・紬(川口春奈)のかつての恋人であり、自身の親友・想(目黒蓮)が8年ぶりに目の前に現れたことで、紬への好意を残したまま、湊斗は別れを選ぶ。それは湊斗にとって、紬も想も大好きで、自分の幸せよりも2人が結ばれることをこそ望んだから。誰も悪くない、だから誰も憎めない。そんなラブストーリーを成立させる鈴鹿のつつましい愛情に、もっともっと翻弄されたい。

好青年・藤原大祐が見せた狂気に度肝を抜かれる

清潔感あふれる黒髪に、目尻に優し気なシワをたたえた愛くるしい笑顔。藤原大祐に悪い印象を抱く人なんてめったにいないのではないかと思うほどの、完璧な好青年。実際、今年公開された映画『モエカレはオレンジ色』では、主人公・萌衣(生見愛瑠)に密かに想いを寄せながら、まったくそれには気付いてもらえない小型犬のような存在を、一切の下心も嫌味も感じさせずに演じきった。

ところが、である。藤原大祐のおそろしさは、そのピュアなルックスで狂気をも違和感なく憑依させるところにある。例えば、7月期に放送されたドラマ『純愛ディソナンス』(フジテレビ)で演じた晴翔がまさにそれだった。登場こそ主人公・冴(吉川愛)らの住むシェアハウスに新入りとしてやって来た純真無垢な好青年だったものの、次第に化けの皮がはがれていく。そして最後には、父親の過ちによって幸せを壊された狂気をむき出しにして、冴を襲う。ピュアと狂気の間を乗りこなす藤原の表現力は実にあっぱれだ。

そもそも彼は、芝居経験がほとんどなかった頃に配信ドラマ『中3、冬、逃亡中。』(dTVチャンネル)で心に闇を抱えた難しい役を演じている。彼の中に眠る狂気には、まだ底知れないものがあるに違いない。