「最初は分からない」という感覚を
大事にしている
――大学教授というアイデアはどこから生まれたんですか?
夏原さんから最初に企画案をいただいた時に、こういう事件があって、こういう解決をするって部分は、すでに今の『カモネギ』だったんです。ただ、主人公が裏社会っぽい人で、それだと『クロサギ』に近すぎる。シンプルに詐欺師の真逆に居る人って誰よ?と考えた時に、陽の当たるところにいる大学教授ではないかと。
――原案は、どういう状態でお手元に届くのでしょう。
いわゆるレポートみたいな感じです。また、2週間に一度ぐらい夏原さんが僕らに講義をしてくれるんです。2巻の終わりの方で始まった最新のマルチ事情とか、1巻に出てくる「ひととき融資」(肉体関係を持つことを条件にお金を貸すこと)とか、知らないことだらけですよ。
夏原さんには取材のバックボーンがありますから、「そんな詐欺が成立するんですか?」という質問にも、なぜ引っかかるのかというところまで詳しく説明してくださる。そこが一番助かるところですね。
――そうすると、作品に落とし込みやすくなりますね。
マンガ家と編集者で仕事をすると、どうしてもマンガ家は中に入り込んでしまって、引いた立場で作品が見れなくなる。そこで、編集者が俯瞰で見る立場にいる訳です。だけど、『ソムリエ』の時に上手くいったみたいに、僕も1回引いて見てみたいと思ったんです。
夏原さんに詐欺事件の話をしてもらう時は、「最初は分からない」という感覚を大事にしていて、その後どう思うかを逐次覚えておくようにしています。この作業って自分で調べながらだと出来ないんですよね。目の前にポンと出された詐欺事件に対して、どう思うか、どういう疑問が湧くか、どういう怒りを覚えるのか。とても大事なところです。