イメージを覆す「怪演」は俳優の武器になる
そこからしばらくして新たに出てきたパターンが、そもそもすでに有名な俳優さんが脱皮を図るため敢えて「怪演」方向に舵を切るケース。
これは、たとえて言うなら、プロレスでいうベビーフェイスがヒールに転向するようなもの。正規軍にいるけどちょっと伸び悩んでいる、どうも最近冴えないといった場合に、ヒール転向で人気が上向くケースは多々ある。
デンジャラス・クイーン北斗晶も、元々は正統派でみなみ鈴香とのタッグ・海狼組(マリン・ウルフ)時代は、ライオネス飛鳥みたいな外見だった。それがヒール転向後、血みどろで抗争を繰り広げ、鬼嫁と呼ばれ、引退後はコストコで大量に買い物するようになるとは当初は誰も思わなかった。
なんの話でしたっけ。そう、正統派からの脱皮パターンの話である。
80年代後半『君の瞳をタイホする!』(フジテレビ)などトレンディドラマ常連だった三上博史は、92年のドラマ『あなただけ見えない』(フジテレビ)で三重人格の人物を怪演。元々寺山修司に見出されアングラ気質だった彼は、以後恋愛ドラマのかっこいい役から、癖のある役を選ぶ役者になっていった。
最近で言えば、「21世紀の石原裕次郎オーディション」でグランプリを獲得して世に出た徳重聡が『下町ロケット』(TBS)『愛しい嘘〜優しい闇〜』(テレビ朝日)などで怪演しているのが印象的だ。
さらに時代が進むと、普段のイメージを逆手にとって「怪演させる」ケースも出てきた。
たとえば2017年『おんな城主 直虎』(NHK)における今川義元役の春風亭昇太。眼鏡でにこやかでいつも明るい噺家というパブリックイメージの昇太に、白塗り顔(いわゆる麻呂メイク)で、表情だけの演技をさせるのはかなりの冒険だったはずだが、それに怪演で応えた昇太もすごかった。
最近だと『魔法のリノベ』(関西テレビ)における原田泰造のパワハラ部長役、『鎌倉殿の13人』(NHK)における佐藤二朗の比企能員役などが、普段のイメージがあるだけにより一層怪演っぷりが目立った。