「怪演」でブレイク! その第1号は?

近年やたらと「怪演」という言葉を耳にする。

やれ怪演女優だ、やれ元アイドルグループ俳優が殺人鬼役を怪演だと芸能ニュースを検索すればいくらでも出てくる。

奇怪な行動や行きすぎた言動のキャラクターを嬉々として演じているような場合にこの言葉は使われるが、実は広辞苑には「怪演」は載っていない。古くからある言葉ではあるが、ここまで頻繁に使われるようになったのはわりと最近のことだ。

大宅壮一文庫で調べたところでは、雑誌見出しレベルでテレビドラマや映画における俳優の「怪演」が最初に出てくるのは1988年である(これより古くから「怪演」という言葉はあり、演劇評などにおいて時折出てきてはいたが、「雑誌見出しレベル」での話ということでご了承いただきたい)。

ここで「怪演」していたのは映画『帝都物語』の加藤役・嶋田久作である。

嶋田久作は『帝都物語』に抜擢されるまで全くの無名で、これをきっかけに世に出た新人。演技もさることながらそのたたずまいがあまりにも奇怪で、魔人・加藤のイメージを世に強烈に植え付けた。

「佐野史郎=冬彦さん」で社会現象に

その次に「怪演」の見出しが並ぶのは1992年。TBSドラマ『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さん役の佐野史郎である(ちなみに佐野史郎は前述『帝都物語』にもわりと重要な役で出演している)。

社会現象ともなったこの作品。極端なマザコンで、木馬に乗り、ムーンと泣く怪演を見せた佐野史郎は一躍有名となった。

嶋田久作にしても佐野史郎にしてもこの怪演をきっかけに世に広く知られるようになったわけだが、その反動で「怪優」のイメージがついてしまい、しばらく普通の役を演じることがなかった。

この「怪演」で世に出るパターンは役が固定されてしまうという点で諸刃の剣だが、近年でも松本まりか、松本若菜などが怪演女優と呼ばれ、そんな感じの役ばかり演じている。

しかし、佐野史郎もその後は正統派の役が増え、今では冬彦さんのイメージからは脱却しているので、世に出るきっかけと割り切って怪演するのもひとつの選択肢なのかもしれない。