みんなが安心して歌を歌えるように
――プロデューサーや作・編曲家、あるいは音楽監督として、ボーカリストと接するときに心がけているのはどんなことですか?
武部 ボーカリストは、プロデューサーやディレクター、作・編曲家といったチームのいろいろな思いを背負ってフロントで歌います。そうするといちばん風を受けるのがボーカリストですよね。そういう意味では、いちばんつらい立場なんです。
だから僕は、ボーカリストがどうすれば実力以上のものを発揮できるか、いかにストレスなく歌えるかということを考えて仕事をしているつもりです。僕がさまざまな番組で音楽監督を任せていただいている理由は、そういったところにあるのかもしれません。武部なら大丈夫だとみんなが安心して歌ってくれることが、僕にはいちばん嬉しいことですから。
――ボーカリストを生かすという、その価値観はどうやって培われたものですか?
武部 学生時代にアマチュアバンドをやっていたころは、自分で歌いたかったんですよ。でも歌えるほど歌がうまくなかった。ちょうど同じ時期にスティーヴィー・ワンダーの歌を聴いて、雷に打たれたようなショックを受けました。
こんな歌を歌う人がいるなら、自分で歌うなんておこがましいなと。だから自分は歌う人を支える側に回ろうと思ったんです。それで20代になって、歌い手を支える立場の仕事を目指したんですね。
――初めはボーカリストになりたかったというのが意外です。
武部 小学生のころからバンドをやっていたんですよ。バンドではギターを弾いて、フロントで歌ってましたからね。中学、高校のころまで。だけど素人レベルだったし、やってるうちに自分のへたさ加減に嫌気が差した。それが僕の原点かもしれません。
構成・文/門間雄介 撮影/野﨑慧嗣
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