オリジナリティーを育む方法

――アイドルに限らず、さまざまなボーカリストと仕事をされてきました。話をうかがいたい方がたくさんいて、キリがありませんが……。

武部 一例を挙げると、一青窈さんはボーカルテクニックというより、伝える力において秀でている人です。聴覚に障害を持つ方たちの前で、コンドームを膨らませて、その振動だけで音楽を伝えるという経験も積んできましたから。

――一青さんは、武部さんがプロデューサーとして、デビュー前からその才能を育んできた方です。

武部 彼女はもともとR&Bが好きで、デモテープではホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーなどを歌っていました。でもその歌を聴いて、いいとは思わなかったんですね。

それよりも彼女の声がよく響く、彼女に合った歌い方があるだろうと思って。彼女が台湾と日本の両方にルーツを持っていることは、いいヒントになりました。

ちょうどその直前に、松たか子さんといくつか和風な曲にトライしていたんです。それがわりと手応えのあるものだったので、それを一青さんの声と合わせて、「和」と「中」を折衷した世界観ができるんじゃないかなと。

当時は宇多田ヒカルさんを筆頭にR&B系歌姫の全盛期でしたから、そこで同じことをやっても勝負にならない。だからまったく違うものをやろうということで、プロデュースワークを始めました。

――ボーカリストとしてのオリジナリティーを追求されたわけですね。

武部 そうですね。彼女のデモテープを聴いたとき、いいと思わなかったのは、ブラックミュージックの真似をしているように聴こえたからでしょう。例えば久保田利伸さんやゴスペラーズみたいに、好きでたまらなくて、死ぬほどコピーしてきたという歌の身につけ方ではありませんでした。

彼女のフェイクも、ブラックミュージックのフェイクではなく、オリエンタルなこぶしに近いものだった。それならその歌いまわしを生かしていこう、そう考えたんです。