本当に優れたボーカリストとは?
――数々のボーカリストを見てきた武部さんにとって、“本当に優れたボーカリスト”とは誰を指しますか?
武部 今、日本でいちばん優れたボーカリストは玉置浩二さんだと思います。強く歌っても弱く歌っても、歌をちゃんとコントロールできるし、言葉の持つ意味や、その言葉の響きをきちんと伝えることができる。テクニカルな部分でも、例えばピッチコントロールの正確さは飛びぬけていますね。
なおかつ感情を揺さぶる声質で、ビブラートの音程幅が広い。本当に素晴らしいボーカリストです。たぶん日本で歌を歌っている人たちは、みんな同感すると思いますよ。
――玉置さんは武部さんが音楽監督を務める『FNS歌謡祭』で、さまざまなボーカリストとコラボレーションしてきました。
武部 そうですね。仕事としてのかかわりは、彼が書いた曲を僕がアレンジして、他のアーティストでレコーディングする機会がいちばん多いです。先日、川崎鷹也さんのカバーアルバムをサウンドプロデュースしたときには、『メロディー』を歌ってもらいました。(玉置さんとは)もちろん音楽番組でご一緒したことも何度もあります。
ユーミン(松任谷由実)や吉田拓郎さんと違い、どうやってウォーミングアップをしているかとか、プライベートなことはまったく知りません。だからわからない部分もありますけど、とにかく音楽的な勘が鋭いですよね。動物的な勘と言うんでしょうか。瞬発力みたいなものをすごく感じます。
――女性のボーカリストを挙げるとしたら誰ですか?
武部 男性が玉置さんなら、女性はMISIAさんですね。それだけのボーカルテクニックを持っているし、表現力も持ち合わせている。ボーカリストが究極的に問われるのは、一声出しただけで人を振り向かせられるかどうかだと思うんです。
自分のことを誰も知らないような街角で、いきなり歌を歌い出したとして、周囲の人たちが「お!」って立ち止まるかどうか。MISIAさんなら間違いなくみんな立ち止まりますよね。それは玉置さんも。別格だと思いますよ。