苦しすぎる岸田総理の答弁

ここまで筆者はインボイス制度は絶対に止めるべきという前提で話を進めてきたが、「政府がここまで推進するのだから、相応の導入根拠があるのでは?」と違和感を覚えた読者もいるかもしれない。

そうした読者向けに、今月7日の参議院 代表質問でのインボイスに関する岸田文雄 総理の答弁を最後に紹介したい。当日、石垣のりこ議員(立憲民主党)はインボイス制度の様々な問題点を指摘し、制度自体の廃止を訴えた。

*詳細な質問内容はSTOP!インボイスの中継ツイート参照

石垣議員の訴えに対して、岸田総理は主に以下3点を根拠に、インボイス制度は予定通りに進めるべきと答弁した。

①インボイス制度は複数税率における適切な課税に必要である
②経過措置を設けることで事業者の税負担を抑える
③独禁法によって取引先からの不当な圧力を取り締まる

しかし、これら3点は「虚偽」もしくは「実効性が低い対策」であり、導入の根拠には全くなっていない。

まず、①は、政府がここ数年ずっと使い回してきた主張であるが、明確な虚偽であることが既に国会で明らかになっている。

政府は複数税率で適切な課税ができなかった例として、食料品(8%)と酒類(10%)をまとめて10%で仕入税額控除したケースを唯一の例として挙げ続けているが、そのケースがどの程度発生しているのかを国会で何度問い質しても、「実数は調査していない」という回答しか返ってこない。

本当に問題があるならば税務署を通して容易に調査できる内容だが、大した問題ではないからこそ実数をあえて調査はせず、政策の導入根拠として利用していることが浮き彫りになった。

*詳細は筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?」参照

②の経過措置(最初の3年間は免税事業者等からの仕入が80%控除可、次の3年間は50%控除可)はあくまで導入後6年間(2023年10月〜2029年9月)限定の措置である。2029年10月以降は完全に無くなるため、問題の先送りに過ぎない。

*経過措置の詳細は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「前提知識ゼロでも理解できる! インボイスの仕組みと問題点」を参照ください

③は公正取引委員会が独禁法違反を適用したのは5年間でたった5件であることを踏まえると、適用のハードルが非常に高く、実効性は期待できない。

現に、今年8月にこの懸念を公平な税制を求める市民連絡会(共同代表:宇都宮健児 弁護士)が公開質問で財務省に指摘しても、具体的な回答は皆無であった。

*公開質問および財務省回答の詳細は筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「【独自】インボイス制度 6つの懸念に対する財務省の衝撃的回答」を参照ください

逆に言えば、岸田総理がここまで穴だらけの原稿を使い回すしかないほど、インボイス導入に根拠はない上に数々の懸念は確実に現実になる可能性が高い。だからこそ、(現時点では)インボイスに焦って登録する必要はない。

既に取引先からの圧力に晒されている事業者が苦しいことは理解しているが、なんとか来年7月までは持ちこたえて状況を見極めてほしい。


文/犬飼淳