本当のタイムリミットまで待つことが突破口になる可能性も
2つ目の理由は、1人でも多くの事業者が本当のタイムリミットまで登録せずに持ちこたえることが、インボイスの延期・中止を実現する突破口になる可能性があるからだ。
まず大前提としてインボイスが実際に開始されてしまえば、その悪影響はフリーランス・個人事業主だけではなく、あらゆる業種の会社員・法人に及び、事業者の淘汰、市場の寡占、物価上昇という形で国民生活に深刻な打撃を与える。
*インボイス導入による被害の全体像は、筆者がtheletter 「犬飼淳のニュースレター」で配信した「国民全員に悪影響が連鎖するインボイス。被害の全体像」を参照ください
ここまで問題の多い制度なのだから、本来であれば国民の反対世論によって法案自体を廃案に追い込むべきだった。しかし、インボイス制度導入を含む税制改正法案はすでに6年も前(2016年)に国会で可決した上、その後も約6年間にわたって大手メディアは問題点をほとんど報じなかった。
来年10月の導入前、最後の国政選挙だった今年7月の参議院選挙で一部政党はインボイス反対を公約に掲げたものの、大手メディアが自らインボイスの問題を報じる動きは皆無だったため、選挙の争点として注目を集めることもなかった。
その結果、反対世論を高めるどころか、未だに実態を知らない国民が圧倒的多数という状況だ。大手メディアが「報道」を放棄して政府の「広報」に徹する状況を踏まえると、民主主義本来の進め方でインボイス制度を中止に追い込むことは難しいのが実態だ。
そうした絶望的な状況でインボイスを延期・中止に持ち込む最後の手段は、インボイスの登録率を下げることだと筆者は考えている。
政府は頑なにインボイス登録対象者の総数を示そうとしないが、1000万者は確実に超えると見られる。2017年時点の国税庁の公表値 (免税事業者数:513 万者超、課税事業者数:310 万者)に加えて、膨大な数が予想される「人格なき社団」(労働組合、市民団体、各業界の同業者組合や商店会、学校のPTA 等)も含まれるためだ。
ちなみに国税庁が公表する2022年9月末時点の登録件数は計1,205,091件(内訳:法人961,923件、人格のない社団等1,375件、個人事業主241,793件)のため、分母を1000万者と仮定した場合の登録率は約12%に低迷している。
表向きの登録期限である来年(2023年)3月になっても登録率が10%台に低迷すれば、延期の可能性も出てくるだろう。現に、政府はこれまでも政策の申請者が予定通りに増えない場合に期限を延長することが度々あった。
性質がやや異なるが、最近の例ではマイナポイント第2弾の申請期限が今年9月末から12月末へ3ヶ月間延長された。さらに、ここから先は希望的観測ではあるが、その後も登録率が改善せずに延期を繰り返した場合、インボイスの導入が中止となる可能性もゼロではない。