それはコミュニケーションではなくセクハラです

高尾:男性も口臭や体臭などに気を遣われている方は多いですが、女性は経血のにおいも気にしますね。経血は血液なので独特の鉄っぽいにおいはあります。でも婦人科の診察で内診台に上がったときに、私たち医師が気づくことがある程度です。

普通に生理用品を使って、ショーツをはいて、洋服を身に着けていたら、ほかの人が察知するほどにはにおわない。ご本人にもそう伝えるのですが、一度気になるとなかなか打ち消せないみたいですね。

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職場や学校などで、男性から生理について不快・不適切な言動を受けたことがありますか?(『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』より)

大吉:アンケートで「においで生理だとわかる」と言われた、というエピソードがありましたが、仮にわかったとしても、それを口に出していうのは……。

高尾:セクハラですよね。デリカシーが欠けています。

大吉:セクハラやモラハラにあたる発言も、結局のところ男性が生理の痛みやしんどさをかなり低く見積もっているからでしょうね。もちろん、知らなければ何を言ってもいいというわけではないですけど。

高尾:加えてコミュニケーションの問題だと思うんです。たとえば、上司から「生理なのか」と突然言われたらびっくりする……でもそのあとに「無理するなよ」とつづくと印象が変わりますよね。

日ごろから部下の体調を気遣っている上司なら「心配してくれているんだ」と受け取れるでしょう。声をかけるのが、同僚たちがいる前なのか、ほかの人には聞こえないような場なのかでも違う。そもそもの人間関係が反映されているんですよ。

大吉:その男性がふだんから女性をどう見ているのかにもよりますよね。〝オジサン〟たちには、女性は元気で活発で、でも我慢強いというイメージがもともとあって、ぼくら世代にもそれが刷り込まれている。それは彼らが「女性はそうあってほしい」と思っていて、その期待に応えるべく女性たちが努力してきた結果なんです

けど、彼らにはその努力が見えない。だから女性がドンヨリと具合悪そうにしていると、ウワッて驚くんです。それで余計なことを言ってしまう……。

高尾:生理がつらくていろんなことをあきらめてきた女性はたくさんいますけど、それが見えていない。女性が見せないようにしてきたのもあると思います。

大吉:学生時代に水泳の授業に出られなかったとか、温泉旅行をキャンセルしたとか、そのレベルにとどまらないわけですよね。

高尾:そうですね、人生にかかわるケースもありますよ。仕事の選択の幅が狭まったとか、大事な試験の日に生理がきてしまって実力を発揮できなかったとか。根性や気合いではどうにもならないほどつらい人もいますからね。

大吉:やりたいことをあきらめないといけないほど、しんどいってことですね。そのつらさについて想像力を働かせる努力はしますが、男性が同じしんどさを体験することはできないし、それでわかったような気になるのも違うと思っています。

となると、「女性は生理があるから、しんどいんだ」というのをベースに考えるのはどうでしょう? 月に10日間しか元気な日がない人もいれば、あまり体調に変化がないという人もいますけど、しんどい人のほうに合わせるんです。

高尾:なるほど、「この人は元気に見えるけど、ほんとはしんどいのかもしれない」という前提だと、接し方も変わりそうですね。ひとりの女性のなかでも、調子の悪いほうの日をベースに考えるといいかもしれません。

さらに、カップル間で体調を確認し合う会話をするのはどうでしょう。「今日はどれくらい?」「なんとなくダルいんだ」とか「今日はすっきりして身体が軽い!」とか。朝の日課としてコミュニケーションを取り合うんです。男性も、自分の体調を言葉で伝える。

大吉:疲れが抜けないとか、お腹がしっくりこないとか、ありますからね。

高尾:どっちがしんどいかを比べるものではなく、お互いの「今日こんな感じ」を知っておくのがいいんだと思います。パートナーや家族だけでなく、職場でやってもいいんです。「生理で調子悪いんです」とまで言わなくてもいいと思います。「10のうち6ぐらいです」と数値化すると言いやすいし、伝わりやすいかな。