圧倒的な投手力と“火力不足”の打線
阪神には青柳晃洋投手や藤浪晋太郎投手、浜地真澄投手、西純矢投手など、個人的にも親交のある投手が多く在籍しているが、そういった私情を抜きにしても、12球団トップクラスの投手力を誇り、投手好きからしたらたまらないチームだった。
現に、今季のチーム防御率2.67という数字はセ・リーグの他球団と比べて1点近くも傑出しており、歴代でも屈指。中継ぎの運用も他球団と比べればレベルが高い。捕手も梅野隆太郎選手と坂本誠志郎選手を併用し、配球にもとてもこだわっている。
何よりも投手ひとりひとりの個性が光っている。非エリートからの叩き上げで今や球界を代表する投手に成長した青柳投手、遠回りしながらもニュースタイルを構築して“あるべき場所”に戻ってきつつある藤浪投手だけでなく、西勇輝投手のような外様エース、伊藤将司投手のような技巧派もいて、バリエーションが豊富。
さらに、渡邉雄大投手のような変則左腕も、加治屋蓮投手のような本格右腕も、見事に復活させて戦力化。また、開幕直後は調整不足だった外国人のケラーも、スアレスやジョンソンのように「育成」した。
これだけ圧倒的な投手力をもってしても、打線が打てず、勝ちにつながらなかったのが今季の矢野阪神だった。一線級投手や苦手なタイプをとことん打てないが、少し力が落ちる相手には打線が爆発することもあり、勝つときは大勝、負けるときは惜敗を繰り返した。
結果、得失点差は大きくなるが、その割に勝てなかった。球団ワースト記録となるシーズン26度の完封負けを喫するなど、投手は3点以上取られたら負けを覚悟しないといけなかった。
今季、打線が振るわなかった大きな要因はサンズとマルテの“火力”が落ちたこと。これは編成の責任でもあるだろう。矢野監督に責任があるとしたら、小技に頼りすぎたことかもしれない。
2軍監督時代に掲げた「超積極走塁」は成果を収め、確かに矢野阪神の武器となったが、長いペナントではやはり打てなければ勝てない。ヤクルトとの“火力”の差は明確だった。
今季はもっとロハス・ジュニアに賭けても良かったと思うが、あまり使わなかった。小兵を起用してパンチ力にかけた打線は、大山悠輔選手、佐藤輝明選手、近本光司選手さえ抑えればなんとかなってしまった。守備陣のエラーも多く、球際の弱さは改善できず。終わってみれば総得失点差はセ・リーグ1位だったが、貯金に繋げることはできなかった。